皆さんは「フィラリア症」という病気はご存知でしょうか?猫と一緒に犬を飼っている方はご存知かもしれませんが、実は命の危険に関わることもある大変恐ろしい病気なのです。今回はそんな「フィラリア症」についてお話ししたいと思います。
猫のフィラリア症とはどんな病気?
フィラリア症とは、蚊によって媒介される寄生虫に感染することによって発症する感染症の一つです。従来は犬に感染する寄生虫なのですが、猫にも感染しフィラリア症を発症することがあります。
原因はフィラリアという寄生虫
フィラリア症は蚊が媒介するフィラリア(犬糸状虫)という寄生虫が血管内に寄生することによって感染し発症します。フィラリアは感染し成虫になると血管を伝い最終的には心臓に住み着きます。「犬糸状虫」の名前が示すように犬のみに感染する寄生虫かと思われがちですが、実は犬だけではなく猫やウサギ、フェレットなど多くの哺乳類・鳥類に感染することが明らかとなっている寄生虫です。
感染経路はどこから?
感染を媒介するのは蚊ですが、その大元はフィラリアに感染した動物です。蚊がフィラリアに感染した動物の血を吸うことによって、血と共にフィラリアの幼虫が蚊にうつります、その蚊が猫の血を吸う際に血管の中にフィラリアの幼虫が入ってしまうことが感染経路となります。
猫の場合は犬と違い、はっきりとした症状がでないことが多いのですが、猫の10匹のうち1匹はフィラリア症に感染しているという調査報告があります。
「うちは完全室内飼育だから大丈夫!」「犬と同居していないから大丈夫」と思ってしまう方もいらっしゃるでしょうが、フィラリア症に感染した猫のうち、約4割は完全室内飼育だったというデータもあります。
※出典:ゾエティスジャパン(株)調べ
猫のフィラリア症、症状は?
猫が蚊に刺されフィラリア症に感染したときには、既にフィラリアは幼虫となって、猫の体内に入り込みます。猫の体内を巡る血液内でフィラリアは成虫になり、心臓や肺に到達します。犬の場合は肺や心臓の血管内にフィラリアの成虫が詰まり、咳や心臓発作、心不全などの特徴的な症状が見られます。一方、猫の場合は肺などの臓器を移動している際に炎症を引き起こし、咳や呼吸困難などの症状があらわれます。それ以外にも、嘔吐、食欲がなくなり、体重が減る、疲れやすいなどの症状や、鬱状態になる猫もいます。
しかし、はっきりとした症状が出ない場合や、他の病気と見分けがつかない様々な症状があらわれることがあります。また、猫に感染したフィラリアは検査では検出しにくいという面もあることから、診断が難しいとされています。
嘔吐や呼吸困難
蚊により媒介されたフィラリアの幼虫が肺に到達すると、免疫作用が起こります。それに伴い、肺の血管や組織に炎症が起こるため咳が出たり、呼吸が速くなったりと肺炎のような症状が現れます。また嘔吐や体重の減少などの症状も現れることがありますが、病院で検査をしてもフィラリア症と断定が出来ない場合もあります。
突然死の危険性もある!
猫の場合、感染した幼虫の多くは猫の免疫作用によって攻撃され、やがて死滅します。しかし、フィラリアの死骸で肺がダメージを受け、慢性呼吸器疾患を引き起こすことがあります。また、生き残った幼虫がいた場合には、成虫へと成長し心臓に到達、右心室に住み着きます。この状態になると手術が必要になりますが、猫の心臓は小さいため負担がかかってしまい、手術に耐えきれなくて命を落としてしまうことがあります。
フィラリアが心臓の右心室を離れ、後大静脈(※)に移動すると、後大静脈症候群(VCS)という突然死の原因になる病気を発症することがあります。VCSを発症すると、呼吸困難になる、突然立てなくなる、赤血球が破壊され赤い尿(血色素尿)が出るなどの症状が見られ、症状が出ると数時間で死に至ってしまうこともあります。
※後大静脈とは … 血液を身体から心臓の右心房に戻す主要な静脈で、下大静脈とも呼ばれます。心臓より尾側にある臓器からの静脈が集中する大きな静脈で、腹腔の背側を腹大動脈に並走しながら心臓に向かい、横隔膜大静脈裂孔を介して心臓へ入る静脈のことで、動物体内における最大の静脈です。
猫がフィラリア症にかかったら…治療は何をするの?
犬の場合は体内の成虫を外科手術で摘出する方法や、駆虫薬の使用によって体内の成虫を駆除することが推奨されています。しかし猫の場合は異なり、確立された治療法が無いのが現状です。
フィラリアが成虫となって猫の心臓に住み着いてしまうと、外科手術が必要になることがあります。その場合、症状の酷さや虫の数などを細かく検討する必要があります。手術を行えないと判断された場合は、症状を抑えるための投薬を行うことになります。炎症を抑えるためのステロイド剤や、呼吸をしやすくする薬を用いた対症療法になります。駆虫薬の使用は猫の体内にいる成虫を死滅させますが、それにより強い免疫反応が起こってしまい猫の体に大きな負担がかかり、命に関わることが懸念されるため推奨されていません。
猫のフィラリア症は完治する?
フィラリアが成虫になり肺や心臓の血管が損傷を受けてしまうと完治は難しく、治療後も症状が出てしまうこともあるため、引き続き投薬が必要になる場合があります。フィラリアにとって猫は本来の宿主ではないため、猫の体内で生きられる年数は1~3年と言われています。(犬では5~6年)フィラリア症に感染した猫の中には特に症状があらわれることがなく、自然治癒することもあります。
猫のフィラリア症、人間にもうつるの?
発症例は少ないものの、犬や猫と同様に、蚊がフィラリアを媒介することによって人間にも感染します。人間に感染した場合は無症状の場合が多いのですが、まれに咳や胸痛、呼吸困難な どの症状があらわれます。
猫をフィラリア症から守るための予防法は?
月に1度投与するタイプの犬猫専用フィラリア予防薬せの予防が友好的です。猫用では、フィラリアだけではなくノミや回虫など様々な寄生虫に効果があり、背中に滴下するタイプが主流です。また、犬や猫でも安心して使える防虫グッズを使うことで、蚊による感染を防ぐこともできるため、併用するのが良いでしょう。
猫のフィラリア症、いつから予防すれば良い?
フィラリア症は蚊によって媒介されるため、蚊が発生する時期に合わせて予防する必要があります。地域や気候によって異なりますが、5月下旬〜11月下旬が一般的なフィラリア予防薬の投薬期間とされています。しかし、投薬期間は独断で判断するのではなく、かかりつけの獣医師と相談して決めることが大切です。
前述したとおり、感染した猫の約4割が完全室内飼育だったというデータがあります。うちの猫は室内飼育だからフィラリアに感染しない!と思わずに、しっかりと予防をすることが必要です。
まとめ
フィラリア症は猫にも感染してしまう、確立された治療法がない恐ろしい感染症です。また特徴的な症状があらわれることが少なく、早期発見も難しい感染症となります。そのためフィラリアを媒介する蚊の対策を施し、フィラリア感染の予防に勤めましょう。