動物愛護法の改正により、2022年6月1日よりペットショップ・ブリーダーで販売(譲渡)する猫にはマイクロチップ装着が義務付けられたことを、皆さんはご存じでしょうか。ご存じという方も、既に愛猫にマイクロチップを装着されているという方も、マイクロチップってなに?なぜ義務化になったの?と聞かれると、詳しい説明ができないかも知れません。
この記事ではマイクロチップについて、どういう目的なのか、どこでどのように装着できるのか、メリットやデメリット、装着に掛かる費用や助成金についてなど、詳しく説明をします。マイクロチップを知らない方、既に愛猫にマイクロチップを装着されている方、マイクロチップ装着を検討中の方、機械を埋め込むなんてかわいそうと思われている方、全ての方に読んで頂きたいと思います。
どうして猫のマイクロチップが義務化されたの?
実は日本は、先進国の中でも犬や猫の殺処分数が多いといわれています。犬や猫が迷子になったり遺棄されると、各自治体が運営する動物保健センターに収容されますが、飼い主が見つかったり、ボランティア団体などに引き出され新しい飼い主がみつかる犬や猫はほんの一握りです。2020年度(2020年4月1日から2021年3月31日)には保健センターに収容された犬や猫は7万2000匹あまり、そのうちの犬4059匹、猫1万9705匹が殺処分されました。(環境庁統計資料より)保健センターでは、首輪や鑑識がついていない犬や猫を「飼い主がいない」としており、飼い主がいない犬や猫が譲渡や殺処分の対象とされているのです。(ただしデータを遡ると、15年程前には年間40万頭でしたが、昨年度は2万3千頭にまで減少しています。)
また、地震大国日本では、1995年におきた阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震など、地震後には多くの犬や猫が迷子になっています。これらの事例を踏まえ、マイクロチップ導入をめぐる議論が始まり、2019年6月、動物愛護管理法の一部を改正する法律が成立されました。
国は犬や猫にマイクロチップを装着させることで、「迷子になった時、災害で離れ離れになってしまったときでも、飼い主を見つけやすい」「安易な遺棄防止の抑止力になる」ことを期待しています。
海外でもマイクロチップの装着を義務化、または推奨している国は多く、アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリス、スイスなどで、特にイギリスでは、飼い猫を含む生後20週以上の全ての猫にマイクロチップの装着の義務化を決定しました。もし違反した場合は最高500ポンド(約7万5000円)の罰金が科されることになり、マイクロチップを装着することで、猫が迷子になったり、盗まれたりした場合でも飼い主と再会できるようになることが期待されています。
動物愛護法改正による猫のマイクロチップの義務化とは?
2022年6月1日より施行された改正動物愛護管理法第39条「マイクロチップ装着等」では、ブリーダーやペットショップで販売される犬や猫に対してマイクロチップの装着を義務化しました。これにより、ブリーダーやペットシップから犬猫を購入した飼い主は、マイクロチップのデータをご自身の物に変更する必要があります。既にマイクロチップを装着されている犬猫を譲渡された場合にも同様に、飼い主自身のデータに変更しなくてはいけません。
全ての飼い猫にマイクロチップを装着しないとダメなの?
マイクロチップ装着の義務化は販売業者(ブリーダー、繁殖業者含む)のみで、それ以外の飼い主は努力義務となっています。もしあなたご自身やご家族、知人が飼っている猫がマイクロチップを装着していなかった場合、「絶対に装着しないといけないの?」と思われるかもしれませんが、「装着するようにしてください」という努力義務なので、装着するしないは飼い主の判断にゆだねられますし、罰則などもありません。例えば、2022年6月1日以前より飼育しているマイクロチップ未装着の猫や、2022年6月1日以降でも知人から譲り受けた、個人が保護した猫の場合は、マイクロチップの装着は義務ではありません。ただし今後、動物愛護法の改正があった際には、今までの努力義務が義務になる可能性もあります。
動物愛護法改正について
動物愛護法の正式名称は「動物の愛護および管理に関する法律」(略式名称は「動物愛護管理法」)といい、主に動物の虐待・遺棄などの防止に関する法律で、環境省組織令(平成12年6月7日政令256号)に基づき、自然環境局総務課が所管課として法令の施行をはじめとする動物愛護管理行政を担っています。
(引用:環境省 動物愛護管理法 https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/1_law/index.html)
この法律自体は、昭和48年に議員立法で制定され、平成11年、平成17年、平成24年、令和元年に法改正が行われました。令和元年(2020年)には、
〇動物の所有者等が遵守する責務の明確化(第7条関係)
〇第一種動物取扱業による適正飼養等の促進等(第12条・第21条の4、5・第22条・第23条・第24条の2、4)
〇動物の適正飼養のための規制の強化(第25条、第26条、第37条)
〇都道府県等の措置等の拡充(第35条、第37条、第38条)
〇マイクロチップの装着等(第39条)
〇その他(獣医師による動物虐待の通報義務など)
〇罰則の強化
といった内容の改正動物愛護管理法が公布され、この中の「マイクロチップ装着等」に関する項目は2022年(令和4年)6月1日が施行日となっています。
マイクロチップ装着等(第39条)以外に注目すべき点は、第一種動物取扱業者(販売業、保管業、貸出業、訓練業、展示業、競りあっせん業、譲受飼養業)第二種動物取扱業者(譲渡し業、保管業、貸出業、訓練業、展示業)の全てにおいて、飼育ケージの数値基準、飼養できる頭数の制限(猫は1人当たり30頭が上限。繁殖猫は25頭まで)、年1回以上の獣医師による健康診断、展示や輸送方法の基準、繁殖基準(猫の場合は交配時の年齢は6歳以下)、生後56日を経過しない子犬・子猫の販売禁止などの基準が設けられました。他にも、動物虐待に対する罰則が強化され、2020年6月より施行されています。動物を殺傷した場合、以前は2年以下の懲役または200万円以下の罰金でしたが、2020年6月からは5年以下の懲役または500万円以下の罰金となりました。動物虐待や遺棄をした場合の罰則も、100万円以下の罰金だけだったものから1年以下の懲役が追加されました。
猫のマイクロチップってなに?
それでは具体的にマイクロチップとはどういう物なのか、大きさや目的など詳しく説明していきます。
猫のマイクロチップとは(どういう物・形状・大きさ)
マイクロチップは、直径約1~2ミリ・長さ約8~12ミリの円形型の電子標識器具です。この電子標識器具はガラスまたはポリマーのカプセルに覆われており、15桁の個体識別番号と、読取りの際に必要になるアンテナの役割を果たすコイルなどが収められています。このカプセルは動物の身体に影響がない、安全性の高いものを使用しています。
マイクロチップのデータ(ID番号)はリーダーと呼ばれる専用の読み取り機で確認することができます。リーダーは都道府県の保健センター、一部の動物病院、警察などに設置されています。
マイクロチップにコイルが収納されていると聞くと、常に電磁波が出ているのではないかと危惧される方もいらっしゃるでしょうが、マイクロチップは専用のリーダーから発する電波に反応して、識別番号をリーダーに送る仕組みのため電磁波は出ず、電池や電源も必要がなく、耐久年数は50年程です。そのため、一度体内に装着すれば、交換する必要はありません。簡単にいうと、SuicaなどのICカードと同じ仕組みです。
猫のマイクロチップの目的
前述したとおり、マイクロチップには15桁の個体識別番号がデータ化されて埋め込まれています。この15桁の個体識別番号と飼い主が提出する情報(猫種・性別・毛色・名前・飼い主の氏名・住所・連絡先)を紐づけてデータ化し、公益社団法人日本獣医師会のデータベースで管理されます。
地震などの自然災害、自宅からの逃走などで迷子になったとしても、マイクロチップのデータを読み取れば飼い主が判明するため、再会できる可能性が高くなります。また、マイクロチップを装着している猫を遺棄した場合、リーダーで読み取ることで飼い主情報が明らかになるため、動物の遺棄抑止に繋がるとされています。
稀に誤解されている方もいらっしゃるのですが、マイクロチップは個体識別をするための物でGPS機能は着いていません。マイクロチップを装着した愛猫が迷子になったとしても、スマホから位置を確認できる、マイクロチップのデータを読み取るリーダーに位置情報が送信されるということはありません。マイクロチップ=迷子(脱走)防止対策ではなく、迷子になっても再会できる可能性が高くなるという事を理解し、脱走対策はしっかりと行ってください。
猫のマイクロチップ装着の義務化 ペットショップ・ブリーダー
ペットショップやブリーダーに対しては、マイクロチップの装着は義務となります。ただし、ペットショップで取り扱う個体はブリーダーから仕入れているため、装着義務は基本的にはブリーダーに課せられるということです。ブリーダーで繁殖した犬や猫は、ペットショップや個人に譲り渡すまでにマイクロチップを装着、猫種・性別・毛色・ブリーダーの名前や住所などの情報登録をしなくてはいけません。また、繁殖用として手元に残す場合には、生後90日になったらその日から30日以内にマイクロチップを装着、装着後30日以内に情報登録をすることが義務付けられました。
2024年以降に施行される予定のブリーダーなどの繁殖業者での飼育頭数の制限、繁殖年齢や回数の制限に伴い、マイクロチップを装着、情報登録することで、母体に危険を及ぼす無理な繁殖の禁止や、遺棄を未然に防ぐ目的があります。実際、人気の猫種を多数飼育し、無理な繁殖を繰り返す悪徳ブリーダーと呼ばれる業者の中には、繁殖に使えなくなった母猫・父猫や販売価値が低いとみなされた子猫を遺棄することが少なくありません。今回のマイクロチップ装着義務によって、そのような悲しい結末を迎える猫が減ることを望みます。
ブリーダー・ペットショップが違反したらどうなる?
ブリーダーやペットショップではマイクロチップを装着していない猫の販売は禁止されます。現段階では、違反した業者が摘発される、免許を取り消される、罰金を科せられるなどの具体的な罰則は決まっていないようですが、マイクロチップを装着しているとみせかけ、偽データを登録するなどの悪質な業者が出た場合、罰則が強化される可能性はあります。
猫のマイクロチップ装着について
では実際にマイクロチップはどこで、どういう手順で装着し、いくら位の金額がかかるのか具体的に説明します。
猫のマイクロチップはどこで装着できるか
マイクロチップは直径2ミリ、長さ8~12ミリの筒状の物体を、専用の注射器を用いて体内に装着します。装着するのに麻酔は用いりませんが、動物の体内に物を埋め込む、という行為なので施術と同じ扱いになります。そのため、動物病院で行うことになります。
ただ、全ての動物病院で出来るという事ではないようなので、マイクロチップの装着を検討しているのであれば、掛かりつけの獣医師に当院で装着が可能か確認することをお薦めします。
猫のマイクロチップ装着方法
前述したとおり、マイクロチップは専用の注射器を用いて無麻酔化で体内に装着します。具体的には、インジェクターと呼ばれるチップ注入器を使います。インジェクターの針は通常の注射針より少し太いため、子猫など身体の小さい猫の場合には、去勢・避妊手術の際に一緒に行うと負担も少ないと言われています。
埋め込む場所は首の後ろ当たりの皮下です。犬や猫は首の後ろの皮膚が柔らかく、伸びやすい構造になっています。そのため、皮下点滴の際には、首の後ろに点滴を刺すことが多いのです。この構造を活かして、身体に負担が少ないとされる首の後ろにチップを埋め込みます。埋め込む際の手順は以下のようになっています。
- 埋め込み前に獣医師がマイクロチップを専用のリーダーで読取り、添付された書類の数字と同じか確認をします。
- 数字があっていればチップ挿入器を使い、首の後ろに埋め込みます。
- 埋め込んだ後、きちんと体内に入っているのか、正しく読み取れるか再度リーダーを使って確認します。(多くの場合、最後の確認は「ちゃんと挿入されている」ことを証明するため、飼い主の前で行います。)
装着までに要する時間は10分から30分程度です。筆者の場合ですが、受付、申請書の記入、問診(当日を含む2~3日で変わったことがなかったかを確認されました)診察(体重、聴診、検温)、診察を終えると猫を預け待合室で待機、10分ほどで完了、リーダーで読取りが出来るか確認、合計で30分以内で終わっています。
猫のマイクロチップのメーカーについて
装着するマイクロチップは国際標準化機構(ISO)11784及び11785に適合しているものでないと、専用のリーダーでデータの読み取りができません。現在日本で装着可能なマイクロチップのメーカーは12社で、以下のコードを使用しています。
3921410~(以下8桁が個体番号) 富士平工業株式会社
3921411~ 株式会社コスミックエムイー
3921415~ 株式会社日立ハイテクマテリアルズ
3921420~ 日本マイクロチップ技術開発株式会社
3921430~ 株式会社共立商会
3921440~ 日本マイクロチップネットワーク株式会社(共立製薬株式会社)
3921450~ サージミヤワキ株式会社
3921460~ 共立製薬株式会社
3921470~ バイオリサーチセンター株式会社
3921480・3921481~ DSファーマアニマルヘルス株式会社
3921490~ 日特エンジニアリング株式会社
3921499~ ワールドネットワーク株式会社
FDX-A(FECAVA規格)、メーカーオリジナル(AVID、Home Again等)はISO非準拠のマイクロチップのため、データを読み取るにはマルチリーダーが必要です。全国の自治体の保健センター、日本国内の動物病院、警察などに設置されているのはISO規格のリーダーのため、ISO非準拠のマイクロチップデータは読み取ることができず、また、公益社団法人日本獣医師会のマイクロチップデータ登録窓口に登録申請をしても受理されません。
猫のマイクロチップ装着に関しての注意点
猫の健康状態や月齢によっては、装着が出来ないまたは先送りになる場合もあります。必ずかかりつけ医に相談をしてください。また、病院にマイクロチップの在庫がない、という事もありますので、当日思い立って来院しても装着できないこともあります。予約をした方が無難です。
装着当日は安静にするよう言われることもありますが、激しい運動や興奮状態にさせなければ、普段通りの生活で大丈夫なので、過度に心配する必要はありません。
猫のマイクロチップ装着にかかる費用
マイクロチップ装着にかかる金額は施術料と登録料です。施術料は病院によって異なりますが、4,000円〜10,000円位のようです。愛猫にマイクロチップ装着を検討されている飼い主さんは、施術料について掛かりつけ医に確認をしてください。
公益社団法人日本獣医師会のマイクロチップデータベースへの登録料として、別途1,000円が必要になります。データベースの登録料は紙ですと1,000円ですが、オンライン上での申請の場合には300円です。飼い主本人が登録料を支払う場合には、紙での申請だと銀行振込、コンビニ決済、オンライン申請だとクレジットカード決済、二次元バーコード決済が選べます。
猫のマイクロチップに登録される情報
では実際に、マイクロチップにはどのような情報が登録されるのか、詳しくご説明します。
マイクロチップには15桁の番号があり、3桁の国番号(日本:392)動物の種類(ペットは14)メーカー番号(2桁)+識別番号(8桁)となっています。最後の8桁は世界でたったひとつの番号で、この識別番号と飼い主が提出した情報(飼い主の氏名・住所・電話番号・メールアドレス・動物の種類・猫種・名前・生年月日)が紐づけられ、公益社団法人日本獣医師会のデータベースで保管されます。
筆者の猫の場合ですが、登録申請書に名前・生年月日、性別(10:オス、11去勢オス、20:メス、21:避妊メス、99:不明のうち21で登録)動物種(01:犬、02:猫で02で登録)品種コード、毛色コード(施術して頂いた動物病院でコード表を確認しました)を記載、施術した病院で施術料金、登録料を支払い、2週間後には公益社団法人日本獣医師会から、マイクロチップデータ登録完了通知書が届きました。
またリーダーを設置している動物病院でしたので、施術後、きちんと装着されているか、データが読み取れるかのテストをして頂けました。病院によっては、申請は飼い主ご自身で行わなくてはいけないところもあるようですし、ペットショップやブリーダーから譲渡された場合ですと、飼い主ご自身が変更届を提出しなくてはいけません。
猫のマイクロチップ登録方法と変更方法
マイクロチップは体内に装着しただけでは、個体識別番号のICチップを埋め込んだ、という状態に過ぎません。個体識別番号と飼い主情報を紐づけることで、ようやく効果を発揮します。初めて登録する際と、変更の際には少し手順が異なりますので、分けてご説明します。
〇初めて登録する場合
マイクロチップ申請書に必要項目を記載します。記載項目は以下のようになっています。
【飼い主情報】名前・住所・電話番号・緊急連絡先・FAX番号・メールアドレス
【猫の情報】 名前・生年月日・性別(10:オス、11去勢オス、20:メス、21:避妊メス、99:不明)・動物種(01:犬、02猫)品種コード、毛色コード
【施術した獣医師情報】(病院側で記載します)獣医師名・動物病院名・住所・電話番号・メールアドレス
記入したマイクロチップ申請書は、施術した動物病院から公益社団法人日本獣医師会へ提出して頂けることが殆どですが、中にはご自身で提出するよう言われることもあるようです。申請後、2週間程度で公益社団法人日本獣医師会から登録完了通知書がメール添付で送られてきます。
〇登録情報を変更する場合
マイクロチップ登録証明書があるのでしたら、犬と猫のマイクロチップ情報登録のWEBサイトで変更届をダウンロードし、オンラインまたはメールで変更依頼をします。
また、郵送やFAXでの変更も可能で、申請書をダウンロードするか03-6758-6170まで連絡し、申請書送付依頼をしてください。
公益社団法人日本獣医師会 犬と猫のマイクロチップ情報登録 〒107-0062 東京都港区南青山1-1-1 新青山ビル西館23階 TEL:03-6384‐5320 Email: info@mc.env.go.jp |
既にマイクロチップが装着されている猫を迎え入れる場合、引越しなどで住所が変更になる場合には登録情報を変更する必要があります。変更を怠ってしまうと、もし猫が迷子になった場合、登録されている飼い主や住所に連絡がいってしまいます。また、マイクロチップを装着している猫が死去した場合には、データ抹消の手続きが必要になります。
猫のマイクロチップのメリット
可愛い猫の身体に埋め込むマイクロチップですが、メリットはあるのでしょうか。ひとつずつ解説していきます。
- 一度装着すると交換の必要性がない
まずメリットのひとつめとして、耐久性があげられます。猫に迷子札付きの首輪をつけている方もいらっしゃるでしょうが、首輪は取れて紛失する可能性があります。ですが、マイクロチップの耐久年数は50年程といわれているので、一度装着すれば生涯に渡って交換の必要がないのです。
- 迷子になったときに再会できる可能性が高まる
地震などの自然災害や、何かのきっかけで自宅から逃走し迷子になった場合、猫と再会できる可能性はかなり低いといわれています。環境省統計資料「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」によると、2020年4月1日~2021年3月31日の1年間で全国の保健センターで引き取った所有者不明の猫の数は34,319匹、そのうち飼い主への返還数は255匹で、迷子になった猫と再会できる確率はなんと0.7%です。飼い主の情報を縫い付けた首輪をしていたり、迷子札をつけた首輪をしていても、首輪は何かのきっかけで取れてしまう可能性があります。保健センターに引き取られたとき、飼い主がいるという証明がなければ、所有者不明の猫として扱われてしまいます。所有者不明の猫として扱われると、譲渡対象になったり、最悪の場合、殺処分されてしまいます。
マイクロチップは首輪のように外れて紛失するという心配はないので、リーダーで読取り、飼い主が判明すれば再会できる可能性が高くなります。また、飼い主が解るので、他の方に譲渡されることや、最悪のシナリオである殺処分を回避することができるのです。
- 盗難時に自分の猫だという事が証明される
万が一大事な愛猫が盗難にあって、運よく見つかったとします。でも猫は言葉を話せませんので「私はこのうちの子でした」と発言することができません。悪意のある盗難者であれば、似ているだけで別の猫、と言い張るでしょう。そのような時、マイクロチップを装着していれば、本当の飼い主が誰なのかが証明されます。猫を盗んだ犯人が、マイクロチップのデータを変更しようとしても、登録証明書や登録申請書の控え、飼い主本人の身分証明書がない限り、データ変更をすることは不可能で、データ登録者(本当の飼い主)に連絡がいきます。
もし海外への引越しの可能性があるのでしたら、マイクロチップ装着を義務化している国もあるので、前もって装着しておくと直前になって慌てずにすみます。
- マイクロチップ装着割引を設定しているペット保険がある
ペット保険会社の中には、マイクロチップを装着していると割引を受けられることもあります。
アクサダイレクト https://www.axa-direct.co.jp/pet/
日本ペット https://www.nihonpet.co.jp/
注)割引額は保険会社によって異なるので、保険会社のホームページなどでご確認をお願いします。また2022年6月現在の情報になりますので、マイクロチップ装着割引のある保険会社が変更になっている場合もあります。
猫のマイクロチップのデメリット
では、マイクロチップのデメリットはあるのでしょうか。デメリットとしていわれている項目について確認をしていきます。
- データを読み取るには専用の器械(リーダー)が必要
マイクロチップは小指の爪先くらいの大きさで、埋め込まれているかどうかは目視で確認することは出来ませんし、手で触っても解らない事の方が多いのです。前述したとおり、全国の保健センターにはマイクロチップを読み取るためのリーダーが設置されていますが、警察や動物病院の設置は一部に留まっています。もしあなたの猫が迷子になり、優しい誰かに保護されたとします。保護した方が動物病院に連れて行ったとしても、その病院にリーダーがなければマイクロチップの情報は読み取ることができません。リーダーで読み取らなければマイクロチップの効果は発揮できないため、他の方の飼い猫になってしまう、ということもあるかも知れません。
- 引越しや譲渡など、飼い主情報の変更があった場合には届け出が必要
引越しや譲渡などで猫の飼い主や所在地が変わる場合には、マイクロチップの情報(データ)を更新する必要があります。更新を怠ると、データは前の飼い主のまま、前の住所のままです。もし猫が迷子になりマイクロチップのデータを読み取ったとしても、情報が古いと以前の飼い主に連絡が入ったり、連絡先が変わっているため連絡自体が取れないということが起きます。変更届はオンラインまたは紙による届け出ができ、変更にかかる事務手数料はありません。
- 装着の際に痛みを伴う可能性がある
マイクロチップの装着には、専用の注射器を用います。直径2ミリ、長さ8~12ミリの物を体内に埋め込むのですから、注射器の先端はかなり太いものになります。そのため、嫌がって暴れてしまう猫もいるようです。未去勢、未避妊の猫の場合でしたら、手術のときに一緒に装着して貰えれば安心だと思います。また、ごく稀にですがマイクロチップが体内で動いてしまうこともあるようです。そのため装着した後半日程度は、激しい運動や興奮して暴れまわらないように気をつけておく必要があります。筆者の猫2匹は、避妊手術が済んでいたので麻酔なしの状態で装着しましたが、特に痛がりもせず、装着後もぐったりしている・食欲がないなどの変わった様子もなく、普段通りの生活を送っていました。
- 拒否反応や破損事故が起こる可能性がある
マイクロチップを装着したことによる拒否反応や破損事故については、ほとんど報告されていませんがゼロではありません。マイクロチップはカプセル内に収まっているので、強く掴んだりしても壊れることはありません。ただし、交通事故でマイクロチップが埋め込まれている場所を強く打ちつけた等があると、壊れてしまう可能性は否めません。
またマイクロチップを装着した場所の周辺で、MRI機器の映像が乱れ、正しく判断できないという事例もありますが、ほとんどの場合は問題無いと言われています。レントゲンやCTスキャンに影響はありません。
気をつけて頂きたいのは、持病を持っている猫、シニア猫です。持病を持っている猫のなかでも、心臓に疾患がある場合、麻酔をしていない状態での埋め込みがストレスになり、何らかの副反応がでる可能性があります。また、腎不全をわずらっており、皮下点滴をしている猫に関しても注意が必要です。マイクロチップは首の後ろに埋め込みますが、点滴の針を指す位置と近いため、万が一ということもあるかも知れません。持病を持っている猫、シニア猫の場合には、獣医師に相談してから装着することをお薦めします。
マイクロチップ装着に不慣れな獣医師ですと、注射器を深く刺してしまい筋肉を断裂させた、正しい位置に装着できておらず体外に排出された等の被害報告がごく少数ですが出ているようです。マイクロチップ自体は安全な物でも、体内に装着するのですから信頼のおける獣医師に依頼するのが良いでしょう。
猫のマイクロチップ装着に補助金はおりるの?
マイクロチップ装着を推進するために、補助金制度を設けている自治体もあるようです。現在公表している自治体は以下のとおりです。
町田市 https://www.city.machida.tokyo.jp/iryo/hokenjo/pet/microchip.html
横浜市 https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/sumai-kurashi/pet-dobutsu/aigo/hiyojosei/microchip.html
鎌倉市 https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/kan-hozen/microchip-hojokin.html
海老名市 https://www.city.ebina.kanagawa.jp/guide/kurashi/pet/1010553.html
守谷市 https://www.city.moriya.ibaraki.jp/kurashi/pet/dogcat/maikurotixtupujyosei.html
名古屋市 https://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/page/0000034576.html
長久手市 https://www.city.nagakute.lg.jp/soshiki/kurashibunkabu/kankyoka/kurashi/gomi/josei/17424.html
京都市 https://www.city.kyoto.lg.jp/hokenfukushi/page/0000206521.html
羽曳野市 https://www.city.habikino.lg.jp/soshiki/seikatsukankyo/seikan_eisei/seikan_eisei_dog_cat/12900.html
鬼北町(愛媛県)https://www.town.kihoku.ehime.jp/reiki_int/reiki_honbun/r060RG00000802.html
福岡市 https://www.city.fukuoka.lg.jp/shicho/koho/fsdweb/2021/0801/1002.html
茨城県獣医師会 https://www.ibajyuu.com/event/2022/20220407.html
群馬県獣医師会 http://gunma-vets.org/microchip.html
注)自治体によって助成金の額や対象、申込方法などが異なりますので、必ず市区町村のホームページを確認してください。また、2022年6月時点での情報になりますので、今後増減する可能性もあります。
猫のマイクロチップ装着、普及しているの?
AIPO(※)によると、現在の猫の登録数は738,298件です。2021年12月に一般社団法人ペットフード協会が発表した猫の飼育頭数は8,946,000匹なので、普及率は8%で、まだまだ普及しているとは言えないようです。(引用:一般社団法人ペットフード協会「2021年(令和3年)全国犬猫飼育実態調査 結果」)
※AIPO(Animal ID Promotion Organization:動物ID普及推進会議)全国動物愛護推進協議会(公益財団日本動物愛護協会、公益社団法人日本動物福祉協会、公益社団法人日本愛玩動物協会)と公益社団法人日本獣医師会で構成される組織で、平成14年度からマイクロチップによる犬・猫等の家庭動物の個体識別の普及推進を行っている組織です。
猫のマイクロチップの義務化、問題点はある?
マイクロチップ義務化については環境省が先頭で動いたため、実は獣医師会でも若干の波紋があったようです。そのひとつが登録に関する事で、2022年5月31日まではマイクロチップのデータ登録窓口は、Fam、ジャパンケネルクラブ(JKC)、マイクロチップ東海、日本マイクロチップ普及協会、公益社団法人日本獣医師会(AIPO)などの民間登録団体でしたが、マイクロチップの義務化が施行される2022年6月1日以降は公益社団法人日本獣医師会「犬と猫のマイクロチップ情報登録」のみが登録指定機関となりました。Fam、JKC、マイクロチップ東海、日本マイクロチップ普及協会、AIPOのシステムと、犬と猫のマイクロチップ情報登録のシステムは別の物で、自動で移行されるわけではありません。つまり、飼い主本人が「犬と猫のマイクロチップ情報登録」にデータを移行しないと、猫にマイクロチップは装着されているけれど「犬と猫のマイクロチップ情報登録」ではデータ確認ができない、という状況なのです。環境省のマイクロチップに関するQAを確認すると、販売業者以外の一般の飼い主は「犬と猫のマイクロチップ情報登録」に登録する義務はなく、移行登録を希望する場合には日本獣医師会に問い合わせるか、2022年6月30日までは環境省データベースへの移行登録受付サイトで移行登録が可能とありますが、先に民間業者5社がマイクロチップ装着事業を進めていたのですから、データを一元管理するなどの対応が出来たのではないかという疑問も生じます。
また、普及率からも解るように、マイクロチップ装着が努力義務とされている一般の飼い主たちの間では、猫の体内にマイクロチップを埋めるということに不安や嫌悪感を抱くひともいるようです。
関連ニュース:https://toyokeizai.net/articles/-/592810
環境省はマイクロチップの普及を本気で考えているのならば、犬や猫の飼い主に向けて、なぜ必要なのか、メリットやデメリット、安全性についてきちんと説明し、飼い主の気持ちに寄り添う対応が必要だと思います。
その一方で、マイクロチップを装着していたから愛猫と再会できたというニュースも話題になっています。マイクロチップは首輪や迷子札と違い、一度装着すれば生涯有効であると言われています。迷子になった大事な愛猫と再会できる飼い主さんが増えることを望みます。
関連記事:猫には首輪とマイクロチップどちらが良い?メリットとデメリットを解説!
まとめ
猫のマイクロチップ装着はペットショップ・ブリーダーは義務ですが、一般の飼い主は努力義務です。また公的な情報があまりにも少なく、メリットやデメリットに関して個人的な考えが拡散している状況です。このような状況下ですと、猫にマイクロチップ装着をしない、という判断をする飼い主さんも多いと思います。
実際に筆者の猫2匹は2021年9月と11月にマイクロチップを装着しましたが、きっかけは住んでいる地域で大きな地震が頻発したためです。マイクロチップ装着後、登録は公益社団法人日本獣医師会(AIPO)でしたが、2022年6月以降、「犬と猫のマイクロチップ情報登録」にデータ移行を飼い主自身で行う必要があることは知りませんでした。迷子になった猫、災害時に離れ離れになった猫と再会できる可能性が高いというのは、マイクロチップの最大のメリットだと思います。環境省や公益社団法人日本獣医師会は、マイクロチップに関する公式な情報をもっと発信して欲しいと望みます。