暖かな陽気に新しい環境。期待や緊張で胸が躍る「春」ですが、一方で心身ともに大きな疲れを感じる機会の多い季節でもありますよね。実はそれは猫も同じで、この時期特有の、いわゆる「春ストレス」が原因で辛い思いをしている子が多発しています。
なぜ猫は春にストレスを感じるの?
猫が春ストレスを感じる原因は様々ですが、環境や愛猫の様子から探ってあげる必要があります。
寒暖差・気圧の変化
日中はポカポカと暖かいのに、夜になると肌寒い…など、春は寒暖差が非常に激しい季節です。この気温差に身体が慣れていないため、無意識のうちにどうしても疲れを感じてしまいます。
また、春はまだ冬毛から夏毛への生え変わりの途中ですから、急に暖かい日が続くと、モコモコとした冬毛に熱がこもってしまい、発散されない暑さが猫にとって大きな負担となってしまうのです。
繁殖期
春先に「アーオ、アーオ」と、まるで人間の赤ちゃんのように鳴く猫の声を聞いたことはありませんか?これは発情している猫特有の鳴き声で、猫は春と秋の年に二回、繁殖期(発情期)のピークを迎えるといわれています。
「我が家の猫は完全室内飼いだから関係ない」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実はそれは大きな間違いです。
猫の発情は日照時間が長くなることにより誘発されます。春になり外が明るい時間が延びることで、野良猫達は発情し、繁殖期を迎えるのです。そんな彼らの鳴き声やフェロモンの影響により、去勢・避妊手術前の室内飼いの猫達はどうしても落ち着なくなってしまうのです。本来持つ生殖本能が満たされないことは、猫にとって非常に強いストレスになってしまいます。発情期は繰り返し続きますから、ストレスは積もりに積もり、やがて健康面に大きな影響を及ぼしてしまうことも考えられます。大きな鳴き声や尿スプレーなどといった発情期の猫特有の問題行動が、愛猫のみならず飼い主さんのストレスにも繋がりかねません。
去勢・避妊手術をすることで、繁殖期の猫同士の喧嘩による怪我や、望まない妊娠を防ぐことができるだけではなく、メス猫であれば子宮内膜炎や乳腺腫瘍などといった、命を脅かしかねない生殖器系の病気の予防が期待できます。
花粉・ノミダニなどのアレルギー
春の訪れに合わせて始まる花粉の飛散に毎年悩まされている方は少なくないと思いますが、猫の花粉症も増加傾向にあるといわれています。主な症状は、目ヤニやくしゃみの頻発のほか、猫の場合はアレルギー反応が皮膚に出て、強いかゆみを伴う炎症を起こしてしまうケースが多いようです。人間と同じように、猫の花粉症もいつ発症するか分かりませんので、前述したような症状がみられたり、頻繁にかゆがるような素振りを見せたら、早めに動物病院を受診し、適切な治療を受けるようにしましょう。
また、暖かい季節に併せて気をつけたいのがノミ・ダニです。屋外の草木や野良猫との接種などからこれらが体に付着すると、アレルギー性皮膚炎を起こします。皮膚にポツポツとしたかゆみを伴う湿疹ができ、かきむしりすぎて出血してしまうこともしばしば。こちらは予防薬で簡単に防ぐことができますので、獣医師に相談して処方してもらい、しっかり予防してあげましょう。
換毛期
春先から初夏にかけて、猫の毛は、温かく保温性抜群な冬毛から、風通しが良く涼しい夏毛へと、生え変わりの時期を迎えます。これを「換毛期」と呼びますが、この時期の猫は不要になった毛がどんどん抜け落ちてきます。毛づくろい(グルーミング)中に大量に飲み込んだ毛玉がうまく吐き出せず、胃に不快感を覚えたり、時には病気の原因になってしまうことも。こまめにブラッシングをし、余分な毛を取り除く手伝いをしてあげましょう。ブラッシングをしてあげることで、愛猫の皮膚の代謝を上げることができるうえに、春先に多く見られがちな皮膚トラブルの早期発見も期待できます。
生活環境の変化
進学、就職、転勤に伴う引っ越しなど、春は飼い主さんの生活環境が大きく変わる季節です。猫にとって、住み慣れた環境の変化は、心身共に大きなストレスがかかってしまうもの。体調を崩してしまう子も珍しくはありません。
引越しだけでなく、例えば学生から新社会人になるので、思い切って部屋の模様替えをしてみよう!と思われる飼い主さんもいらっしゃるでしょう。先述したとおり猫は住み慣れた環境の変化に弱く、ストレスを抱えてしまう生き物です。模様替えをする場合でも、愛猫のお気に入りスポットには手をつけない。まずは部屋の一部だけ変更して徐々に部屋全体に手を加えるなど、ストレスを感じさせない工夫が必要です。
気付いてあげたい不調のサインとは?
愛猫には、いつも心穏やかにのびのびと過ごしていてもらいたいものですが、長い人生(猫生)、どうしてもストレスがかかることを避けられない場面もあることでしょう。人間と同じように、猫も強いストレスを感じたり、ストレスがかかった状態が長く続くと、体調や行動面などに変化が現れてくるものです。ここからは、猫がストレスを感じたときに見せるサインや症状についてご紹介していきます。
● 過剰なグルーミング
猫にとって、グルーミングは生活していくうえで欠かせないルーティンの中のひとつですが、強いストレスを感じていると、グルーミングをしなくなる、または頻度が極端に落ちて毛艶が悪くなります。逆に、長い時間執拗にグルーミングをし続けているのも注意が必要です。猫は自身の気持ちを落ち着かせようとするときにもグルーミングを行うものなので、過度にし続ける様子が見られる場合、心に強いストレスがかかっていることが考えられます。
● 粗相する
トイレ以外の場所で粗相をしてしまうことは、猫の典型的なストレスサインといわれています。猫トイレが汚れていないか、フードやお水は十分な量を与えられているかなど、愛猫の身辺を今いちどチェックしてあげてください。また、排泄物の臭いが残っていると同じ場所に粗相を繰り返してしまいますので、しっかりと掃除や除菌をするなど注意が必要です。
● 食欲不振
強い不安やストレスから、猫はフードを食べる量が普段よりも減ったり、全く食べようとしなくなることがあります。引越しなど一時的なストレスが原因で、またすぐに食欲が戻る様子が見られれば問題ないのですが、食欲不振の状態が続いたり、トイレの回数が極端に減った場合は、すぐに動物病院を受診してください。
● じっとしている
慢性的なストレス状態が続くと、猫も人間のように「不安症」や「うつ」のような症状が現れることがあります。部屋の隅にうずくまったままじっと動かない、食欲がなく痩せる、いつもと違う様子で鳴き続ける、眠れなくなる、などといった様子が見られ、数日続くようであれば、すぐに動物病院で相談するようにしましょう。
● 隠れる
家具の隙間や物影など、猫は暗くて狭い場所で過ごすことが好きで安心感を覚えるものですが、1日中そのような場所から出て来ようとしない場合、強いストレスを感じていることが考えられます。無理に引っ張り出すことは余計なストレスをかけることになるため、過干渉せずそっと様子を見守るようにしましょう。
● 触ると怒る・触ろうとすると逃げる
ストレスから小さなことでイライラしたり、人との接触を避けてしまったり…例え大好きな相手であっても構ってもらいたくないときもあります。人間と同じですね。そっとしておいてあげましょう。
● 肉球の汗
猫の肉球は、体温調節機能を持つ箇所のひとつです。肉球には汗腺があり、暑いときには汗を分泌することによって体温を下げようとます。真夏でもないのに肉球に多量の汗をかいている場合、ストレスを感じていることが考えられます。
「春ストレス」が引き起こす病気がある?
強いストレスが続くと、猫の心身は緊張状態から解放されません。これが免疫力や内臓の働きの低下の原因となり、病気に繋がってしまう恐れがあります。
突発性膀胱炎
猫はもともと頻尿器系のトラブルが多い動物で、「突発性膀胱炎」も、春ストレスが原因で発症する病気ワースト1といわれています。これは、原因を特定することができない膀胱炎で、あらゆるストレスに由来するものだと考えられています。
主に見られる症状は、トイレへ頻繁に行くのに排出される尿量が極端に少ない、血尿が出る、トイレ以外の場所で粗相をする、などが挙げられます。
猫風邪
猫風邪の主な原因となるのは「ヘルペスウイルス」や「カリシウイルス」で、どちらも免疫力が低下している猫に多く見られます。
ヘルペスウイルスが原因となる猫風邪を、「猫ウイルス性鼻気管炎」と呼び、主な症状はくしゃみ、鼻水、発熱など、人間の風邪症状と似ています。時々、結膜炎がみられることもあり、その場合涙や目ヤニが確認されます。このウイルスは、やっかいなことに一度感染すると体内にウイルスが潜伏し、免疫力が低下すると再発してしまう恐れがあります。
カリシウイルスが原因となる猫風邪を、「猫カリシウイルス感染症」と呼び、主な症状はくしゃみ、鼻水などですが、カリシウイルスによる猫風邪の大きな特徴は、口内炎ができやすいという点です。よだれが増えて口元が汚れていたり、口臭が強くなったり、口腔内の痛みから食欲が落ちたりすることで、感染に気付くケースが多いようです。カリシウイルスもまた、症状が消失し元気になったとしても、体内からウイルスを排出し続けることがあり、他の猫へ移してしまう恐れがあります。
皮膚炎
暖かくなってくると活発化するノミやダニをはじめとした外部寄生虫。これらが身体に付着することにより皮膚炎が起こります。ノミに刺されたことが原因で発症するノミ刺咬症や、猫の体質次第では、ノミの唾液にアレルギー反応を起こしノミアレルギー性皮膚炎になる子もいます。
心因性脱毛症
強いストレスが慢性的なものになってくると、猫は自身の気持ちを落ち着かせるために、身体の一部をずっとグルーミングし続けることがあります。同じ所をなめ続けた結果、その場所の毛が薄くなってしまう症状のことを「心因性脱毛症」といいます。この症状が見られるのは、前足や後ろ足など、主に猫の口の届きやすい箇所だといわれています。
「春ストレス」でおきるトラブルとは?
前述のとおり、春先の猫は様々な事柄が原因で強いストレスや不安を覚え、心身の健康を損ねてしまいがちになります。春ストレスが原因で、以下のようなトラブルに繋がってしまうケースもあります。
脱走してしまう
猫にとって、春は気持ちがソワソワと落ち着かなかったり、家の外が気になってしまう季節です。そのため、飼い猫達は春先に脱走をしてしまう可能性が、ほかの季節よりかなり高い傾向があります。
引越しをして新しい環境にとまどっていたり、野良猫達の発情期に誘発されたりと、脱走の理由は様々ですが、飼い主さんはこの時期特に注意が必要です。もし脱走してしまうと、外の世界に慣れていない飼い猫は帰り道が分からなくなって行方不明になったり、野良猫との喧嘩や交通事故などによる怪我や病気の恐れがあります。最悪の場合、命に関わる事態に陥ることも考えられます。
あなたの家の扉や窓は大丈夫ですか?愛猫が触っても簡単には開かない仕組みになっているでしょうか。今一度、脱走対策を見直してみましょう。
性格の変化
普段穏やかな性格の子が凶暴化したり、活発に遊ぶことが大好きな子が急に大人しくなったりなど、ストレスが原因で性格が変化したように見える猫もいます。
粗相する
猫は強いストレス状態にあると、おしっこを壁や家具などにひっかけてニオイ付けすることにより安心感を得ようとすることがあり、この行動を「尿マーキング」といいます。お尻を上げてまるでスプレーを噴射しているかのようなスタイルが特徴ですが、トイレで排尿するときのように座ってする子もいます。
猫の「春ストレス」対策はある?
出来ることなら愛猫にはストレスフリーで過ごしてもらいたいものですが、生活していく上で飼い主さんだって色々事情があります。どうしても愛猫のストレスを回避できない場面もあることでしょう。そんな時に効果的なストレス解消法をいくつかまとめてみました。
- お気に入りのオモチャで思い切り遊んであげる。
- 好きなオヤツを与える。
- 窓辺にキャットタワーを設置するなど、気分転換ができる場をつくってあげる。
- こまめにブラッシングをしてスキンシップをとりつつ、余分な毛を落としてあげる。
猫にとって、大好きな飼い主さんとの時間が何よりの癒しとなります。あなたの愛猫にぴったりのストレス解消法を、無理のない範囲で模索してあげましょう。
ただ、発情期のストレスだけはどうすることも出来ませんので、なるべく早く去勢・避妊手術をしてあげることをお勧めします。
まとめ
「五月病」という疾患が存在するくらいですから、春先は私たち人間も心身共に疲弊しやすい季節といえます。ストレスから体調を崩し、病気を引き起こしてしまうような事態を避けるためにも、日頃から愛猫の健康観察を忘れないよう心がけ、少しでも異変を感じたら動物病院で相談するようにしましょう。