自由を愛する猫は、人には縛られない。そんな格好良さも持ち合わせた上にかわいい猫ですが、人と暮らす中では『どこの家に住んでいて、誰と暮らしているのか』の身分証明が必要になることがあります。猫には戸籍もマイナンバーカードもありませんので、身分を証明するものがありません。そこで活躍するのが、首輪とマイクロチップです。特にマイクロチップはブリーダー・販売業者に対する装着義務がニュースになったことで気になっている方も多いでしょう。今回は気になる首輪とマイクロチップについて詳しくお伝え致します。
猫に首輪は必要?
犬は散歩をするので、首輪やリード、時にはハーネスの使用も当たり前のように浸透していますが、猫に首輪を付けるのをためらう方は多いでしょう。そもそも、首輪をするのを嫌がる猫も多いです。普段の生活が完全室内飼いだから大丈夫と思っていても、万が一の備えとして必要になる場合があるので確認していきましょう。
猫の首輪のメリット
最大のメリットは誰がどう見ても絶対に飼い猫であることが一目瞭然であることです。首輪は猫にとって身分証明書と同じくらいの効力を発揮します。また、災害時の避難所へ同行避難する場合、首輪の着用が必須であることが多いです。
- 目印として
天性のハンターである猫は足音を立てずに歩くことができます。そのため、家の中でも行方不明になってしまうことがあり、慌てて探し回った経験のある方も多いでしょう。特に小さな子猫は好奇心のままに予想外の場所に潜り込んで見つからなくなってしまうため、首輪に鈴を付けておくと目印になります。
- 迷子対策として
迷子になって保護された猫は拾得物として警察へ知らされるか、保健所に連れて行かれます。保健所に連れて行かれた猫は首輪が無い、マイクロチップも装着していなければ飼い猫と判断できず、一定期間を過ぎれば希望者へ譲渡、または殺処分の対象になってしまいます。首輪に迷子札を装着しておけば、保護した側も飼い主に連絡することができるので、迷子になっても再会できる確率が上がります。
飼い主から見れば「世界で唯一のかわいいウチの子」ですが、その子を知らない人から見ると、よほど印象的な特徴でも無い限り写真やポスターから判別するのは難しいことです。そこに「○○色の首輪をしている」が加わっていると、確信を持って連絡できます。
また首輪についているチャームはオシャレのためにあるのではなく、裏側に飼い主の名前や連絡先を記入できるようになっています。チャームは金属製の物が大半で、油性マジックで書く必要がありますが、稀に取れてしまったり、文字が薄くなってしまう事があります。チャームの裏側に飼い主の名前や連絡先を記入していても、念のために首輪の裏側に飼い主名、連絡先を記入した布を縫い付けておくと安心です。
- 災害時に一緒に避難するのに必要
万が一の災害時、避難所で過ごすためには、キャリーはもちろん、首輪やリードが必要です。それらの装備が無いと避難所で過ごすことができません。犬と違って日頃から首輪やリードに慣れていないと、猫にとって大変なストレスになります。
また、猫の首輪は安全のためセーフティバックル(一定以上の力が加わると外れる)が使われている物が多いため、首輪だと不安な場合はハーネスにも慣らしておくとより安心です。日頃から少しずつ慣らしておいて、災害時のストレスを軽減できるように備えましょう。
猫の首輪のデメリット
あれもこれもウチの子に似合うし可愛い、と迷ってしまいますが、まずは安全性を第1に選んであげて下さい。また、素材やサイズ、付け心地も優先してあげないと思わぬトラブルを招くことがあります。
- 事故を招く危険性
サイズをしっかり確認せず緩すぎる首輪をしていると、家具やドアノブの突起に引っかかって宙づりになり窒息死する危険があります。安全を配慮したセーフティバックル付きの首輪で事故を防ぎましょう。また、かわいいウチの子のために手作りしてあげたいという時も、セーフティバックルのみの販売もありますので、可愛さよりも安全を優先して作ってあげて下さい。
- 皮膚病の可能性
素材が合わないことでアレルギーを起こす、サイズがきつすぎて皮脂やフケがたまり雑菌が繁殖してしまうなどが原因で皮膚病を起こす恐れがあります。特に素材に関しては、重くて固い皮製のものは動いてすれる時の圧力が強く、肌荒れを起こして皮膚病を招く可能性が高いです。素材によっては長期間身につけることで徐々にアレルギー反応が出てしまう物もあります。肌に優しく、負担が少なくて軽い、コットンなどを使用した首輪を選んであげると良いでしょう。負担が少ないとは言え、こまめに外して汚れを落とし、日々のブラッシングで首輪をずらしてお手入れするなどのこまめなケアも必要です。
- ストレスになることも?
人間にとっては目印になって良い鈴も、常に音がすることで猫にはストレスになってしまうことがあります。中には音に慣れて使いこなせる子もいますが、日頃から音に敏感な子は避けた方が良いでしょう。そもそも、首輪を付けること自体がストレスになる子もいます。
猫が首輪を嫌がったら…
猫が首輪を嫌がる原因として考えられるものは、重くて邪魔・飾りが嫌・素材が肌に合わなくてかゆい・サイズがあってなくて苦しい・首輪が怖いなど、多くのことが考えられます。それらを無視して必要だからと強引に付けてしまうと、長期的なストレスが様々な病気の原因になってしまいます。猫は大変ストレスに弱い動物ですので、強要しないようにしましょう。
猫は嫌なことをしっかり記憶してしまいます。危険なことから身を守る本能的な反応なので仕方ないのですが、首輪=嫌なことと覚えられてしまうと、今後必要な時に着用できません。まずは首輪の匂いを嗅いで危険な物ではないと知って貰い、おもちゃにして遊んで貰うのも良いでしょう。例え数秒でも首輪を付けることができたら、たくさんほめて大好きなおやつをあげましょう。そうすることで首輪=良いこと!と覚えて貰えます。嫌がることでも少しずつ段階を踏んで慣らし、ほめてあげることで少しずつ受け入れてくれます。できれば好奇心旺盛で素直な子猫の内に慣れておくと猫にとってもストレスが少なくなります。
猫の首輪選びのポイントは?
ポイントは幾つかありますが、大きく3つです。
- 安全性
最も危険な窒息を防ぐために、セーフティバックルの首輪を選びましょう。伸縮性のある首輪よりも、安全性は高いです。
- 素材
肌に優しく、軽く、柔らかくて肌への負担が少ないコットン素材が安心です。迷子札も苦手な子がいますので様子を見て嫌がるようなら、首輪に直接貼り付けたり、刺繍したりするタイプがありますので、そちらへ変更しましょう。
- サイズ
サイズは人の指が2本入るくらい(首周りの長さ+5~6センチ)が適切です。装飾が無く、シンプルなもので幅は1㎝くらいなら猫の負担も少なくなります。
コットンのみに制限しても、たくさんのデザインが市販されています。安全に考慮できれば、飼い主が手作りしてあげても良いでしょう。1番重要なのは、身に付ける本猫が気に入っているかどうかです。よく様子を観察して本猫がお気に入りのおしゃれな首輪を選んであげて下さい。
猫のマイクロチップってなに?
マイクロチップとは、直径2㎜、長さ8~12㎜(※)の円筒形の電子標識器具のことです。外側は生体適合ガラスでできており、内部にはデータを入力するためのIC、電極コイル、コンデンサーが入っています。専用のリーダーで読み取ると、搭載されているデータを読み取って猫が誰の家族なのかを素早く識別することができます。
(※)最近は直径1.2㎜、長さ8㎜の物が主流になりつつあります。
猫のマイクロチップのメリット
首輪と同じく身分証明になることが最大のメリットであり、首輪と違って外れて無くなることがありません。他にも、マイクロチップの種類によってはリーダーをかざすだけで体温測定できるタイプもあります。
- 身元確認ができる
マイクロチップを装着した猫が、動物病院や警察、動物保護センターなどに保護されると専用のリーダーでマイクロチップを読み取り、速やかに飼い主の元へ連絡が入ります。首輪や迷子札は外れてしまうこともありますが、マイクロチップは体内に定着しているため、紛失することがありません。
- 迷子になっても再会できる可能性が高い
脱走して迷子になる、災害によって離ればなれになってしまった際に、再会できる確率が首輪のみよりも格段に高くなります。特に災害時離ればなれになってしまうと、数日で保護されるとは限りません。やせ細り様変わりしてしまって、見た目だけでは判断できないこともあります。環境省の調査によると、2019年度に負傷動物として保護された猫のうち、家族の元へ帰ることができたのは約3.5%。また、東日本大震災の際、ある自治体で保護された猫の内迷子札のついていない首輪のみの猫は飼い主が判明せず、家に帰ることも家族の元へ帰ることもできなくなっています。マイクロチップを装着していれば、情報を得て直ぐに連絡が可能です。
- 半永久的に使用できる
1度装着すれば、耐久年数は30年と言われています。耐久年数内は再装着の必要がありません。また、リーダーから発信される電波を利用するので、電池交換の必要もなく、装着後は半永久的に使用可能です。
他にも、動物保険に加入する際、マイクロチップを装着していると割引を受けられるサービスもあります。
猫のマイクロチップのデメリット
たまに思い違いしてしまう方も多いのですが、マイクロチップにはGPS機能が無いため、盗難による被害を防ぐことはできません。あくまで、誰と暮らしているか識別できる迷子札が体内に埋め込まれている、という感覚です。最大のデメリットは装着する猫の方ではなく、人が感じる異物を埋め込む嫌悪感です。
- 専用のリーダーがないとダメ
いくらマイクロチップ内に飼い主の名前や住所などのデータが搭載されていても、読み取れなければ意味がありません。専用のリーダーは、販売業者に対するマイクロチップ装着義務化に伴って普及が広まっていますが、まだリーダーが常備されていない動物病院などもあります。
- 登録情報変更の時は届け出する
マイクロチップは正しい情報が搭載されていることによって効力を発揮します。そのため、引っ越しや電話番号が変わった時などはデータ管理元である公益社団法人獣医師会へ必ず届け出をしましょう。届け出が無い限り、変更されることはありません。また、マイクロチップは装着後、情報登録が必要です。これを忘れてしまうと、マイクロチップは何の意味も無くなってしまいます。装着後は速やかに登録まで完了させましょう。災害時、マイクロチップは装着されていたものの登録が完了していないことで確認が取れなかった例もあります。
中には「常時電磁波が出るものを体内に埋め込むのは健康上問題ないのか」と思われる方もいらっしゃるようですが、猫のマイクロチップ本体からは電磁波は出ていません。リーダーで読み取る際、リーダーから発信される微弱な電波(信号)を受け取って初めて発電する仕組みになっており、マイクロチップ自体は発電する能力は備えていません。suicaなどの電子マネーに使われている電子タグと同じ仕組みです。
マイクロチップはどこで装着すればよい?
かかりつけの動物病院で装着でき、所要時間は30分程度です。装着が終わると獣医師から「マイクロチップ装着証明書」が発行されます。病院によっては登録申請まで行ってくれるところもあり、その場合は後日、公益社団法人 日本獣医師会が発行する「マイクロチップデータ登録完了通知書」が自宅に送られてきます。完了通知書には、マイクロチップのID番号、猫の名前、品種、生年月日、埋込日が記載されており、引越しや譲渡などでデータ変更をする際に必要になるので、大切に保管してください。
装着する際には、病院に在庫が無ければ取り寄せが必要な場合があるので、あらかじめ予約をされることをお薦めします。
マイクロチップの装着費用は?
マイクロチップそのものの費用は無料ですが、装着する際の埋め込み費用とデータ登録申請手数料(1,050円)がかかります。埋め込み費用は動物病院によって異なり、3,000円~10,000円(平均5,000円~6,000円)位のようです。また、データ登録申請手数料もオンラインだと300円、紙媒体の場合には1,050円です。
マイクロチップ装着に関して助成金が出る市区町村もあるようですので、お住まいの地域の保健所や掛かりつけの動物病院に確認してください。
マイクロチップの埋め込みは痛くない?
痛みの少ない首に獣医師が専用の注入器を使って皮下に埋め込みますが、通常の注射針よりも太い針で装着するので、できれば麻酔している状態で装着できるよう、去勢・避妊手術と一緒に行うと猫のストレスも軽減されます。マイクロチップ装着後も手術後と同じく安静が必要ですので、1度にまとめておいた方が猫の負担も少なく済みます。
マイクロチップを埋め込んで副反応はない?
装着後、拒否反応や破損事故など、ほとんど報告されていませんがゼロではありません。またマイクロチップを装着した部位周辺で、一部MRI機器の映像が乱れ、正しく判断できないこともありますが、ほとんどの場合は問題無いと言われています。レントゲンやCTスキャンに影響はありません。
マイクロチップは装着しないとダメ?
現在(2022年2月)はまだ、飼い主に対する装着義務は努力義務です。しかし、主に保護猫団体から譲り受ける際、装着する旨契約書に記されていることがあります。これには猫を譲り受けた後、責任持って生涯大切にして欲しいという願いが込められており、転売などの悪質な犯罪を抑止するためでもあります。また、日本は災害大国と呼ばれるほど地震のリスクが高い国です。万が一の災害時、再会できる可能性を高めるのは、マイクロチップを装着していることです。猫の身元保証となり、絶対に紛失しない唯一のものですので、義務ではありませんが検討する価値はあると考えられます。
また、2022年6月1日からは、ペットショップやブリーダーなど猫の繁殖・販売する業者に対しては、マイクロチップの装着は義務化され、違反した場合には行政指導や行政処分の対象になります。マイクロチップ装着の対象は販売用の子猫、繁殖に使う成猫となっています。悪徳業者の中には、繁殖に使えなくなった猫を遺棄したり、保健所などに持ち込むところも少なくありません。そのため、繁殖用の猫に装着することで繁殖業者の飼育環境を把握、改善につながるのではないかと言われています。
愛猫を迷子にさせない工夫はしっかりと!
首輪の迷子札やマイクロチップが効力を発揮するのは、人に保護されたときからです。人に保護されるまでの間、猫の安全は保証されていません。迷子になった猫は基本的におびえて隠れているため、見つけ出すのは非常に困難です。またマイクロチップは身元を照合するのみで、GPS機能はありません。迷子になった猫を探し出すには大変な努力が必要になり、見つけるまでの間猫には命に関わる危険が迫ります。
首輪やマイクロチップは、万が一のための備えというだけで、万全ではありません。あくまで、日頃から家や外出時の脱走対策を整えた上で行う、更なる予防策です。それだけはしっかりと肝に銘じておきましょう。
まとめ
猫にとって首輪やマイクロチップは、併用することで身分証明としての効力が高まります。どちらも万が一のための備えであり、絶対に装着しなければならないものではありません。しかし脱走して迷子になった時、災害時に離ればなれになってしまった時、遠く離れた小さな家族を守る唯一の身分証明になります。大切な家族を守るために、何が1番良い方法なのか、ぜひ家族みんなで話し合って頂きたいです。