猫が原因の猫ひっかき病。症状、治療法、予防法を徹底解説

猫との暮らし 可愛い猫が原因でおきる「猫ひっかき病」どんな症状?治療法はある?

執筆/水科希望

猫ひっかき病って聞いたことあるけれど、実際どんな病気なのかな?と実はあまり詳しく無い方も多いでしょう。重症化すると命にも関わる恐ろしい病気ですが、知識を持って行動することで予防できる病気です!きちんと知識を身につけていきましょう!

猫ひっかき病(バルトネラ症)ってどんな病気?

人が猫に噛まれたり、引っかかれたり、傷のある部分を舐められたりすることで感染する病気です。バルトネラ菌を持ったネコノミが猫に感染し、傷口またはバルトネラ菌を吸い込むことで人にうつる、人畜共通感染症(ズーノーシス)です。主にネコノミが発生・繁殖する7~12月(特に寒くなって猫と接触の機会が多い秋~冬)にかけて多くなる傾向があります。

猫ひっかき病(バルトネラ症)はどんな症状が出るの?

猫に対しての症状と人に対しての症状が異なりますので別々に解説致しますが、大きくは傷口の化膿・発熱・リンパ節の腫れを引き起こします。詳しく見ていきましょう。

猫に対しての症状

猫にネコノミが寄生し、バルトネラ菌に感染すると、赤血球の表面で菌が増殖しますが、特別な症状は出ません。無自覚のまま感染状態が18ヶ月以上続くと言われています。

人に対しての症状

猫には無害なバルトネラ菌は、人の体内では有害です。数日から2週間ほどの潜伏期間後、傷を受けた部分に直径1㎝以下のポツポツした隆起や膿疱(のうほう・膿がたまって盛り上がること)、発熱、全身倦怠感、関節痛などの症状が出ます。更に数週間から数ヶ月続くリンパ節の腫れが見られ、その1~3週間後に突然けいれん発作や意識障害で脳症を併発する(※)こともある怖い病気です。(※発症した人の内、0.25%)ひっかかれたり噛まれたりした場所が手なら脇の下のリンパ節、足なら足の付け根のリンパ節が腫れ、卵くらいの大きさになることもあります。

ほとんどの方が無症状で済む場合が多いようですが、免疫力の落ちているご高齢の方や、糖尿病・免疫不全などの持病を持っている方は悪化しやすいので充分な注意が必要です。経過観察中に少しでもおかしいと感じたら速やかに近隣の皮膚科を受診し、猫にひっかかれた、噛まれたことを医師に伝えて下さい。後述する合併症と共に早期発見と早期治療が何よりも肝心です。

猫ひっかき病(バルトネラ症)でおきる合併症とは

猫ひっかき病によってリンパの流れが阻害されると、細菌やウイルスに対する防衛機能が低下し、合併症を引き起こすことがあります。これらの合併症は急速に悪化し、死亡する可能性もある感染症です。

蜂窩織炎(ほうかしきえん)

蜂窩織炎を発症すると、虫刺され程度の傷でもいきなり足が太く膨らみ、あっという間に足全体が赤く腫れ上がります。膝下に最もよく発生しますが、体のどの部位にも生じ、通常は片手・片足など体の片側だけに症状が表れます。痛みが急激に強くなる、低血圧、皮膚のはがれ(水疱と発熱を伴う)などが見られる場合は重症の可能性が高いため速やかな受診が必要になります。

壊死性筋膜炎(えしせいきんまくえん)

蜂窩織炎と症状が似ていますが、より致死率の高い病気です。壊死性筋膜炎は数時間から数日の経過で急速に進行し、適切な治療を行わないと命の危険があります。早期に診断し、適切な抗菌薬を投与、状態によっては外科的処置も必要になります。

蜂窩織炎、壊死性筋膜炎のどちらの合併症も、治療は早ければ早いほど悪化を防げます。診断にいく最適な所は皮膚科ですが、近くに皮膚科が無いからと迷う前にとにかく病院へ急いで下さい。

その他

心内膜炎、脳炎など、炎症が全身に広がっていく可能性がありますので、微熱が続く、腫れが酷いなど自覚症状があれば直ぐに病院で治療を受けましょう。

猫ひっかき病(バルトネラ症)どんな治療をするの?

細菌感染症ですので、体内に入った細菌に対して抗菌剤の投与を行います。しかし、全ての菌に対して有効な万能薬は存在しておりませんので、猫にひっかかれたなどの状況も含めて何が原因であるのかを診断してから治療を行います。詳しく見ていきましょう。

診断は?

現在はPCR検査・抗体価検査が代表的な診断方法です。猫ひっかき病の症状であるリンパ節の腫れが起こる感染症は他にも考えられるため(野兎病・鼠径リンパ肉芽腫・真菌感染症・ブルセラ症・抗酸菌感染症など)猫ひっかき病か明確に診断できない場合は、これらの微生物調査も実施します。

治療法は?

投薬療法がメインとなり、マクロライド系・テトラサイクリン系の抗生物質に効果がみられるとされています。猫ひっかき病は症状が軽く自然治癒することもありますが、放置したことで完治までに数ヶ月以上かかってしまうことがあります。

気になる症状が見られたら軽度でも皮膚科を受診した方が安心です。

猫ひっかき病(バルトネラ症)によく似たパスツレラ感染症って何?

猫ひっかき病の原因となるバルトネラ菌はネコノミからの感染ですが、パスツレラ感染症の原因菌は猫の口内に100%存在している常在菌による感染症です。犬の口内にも存在していますが(犬は75%)猫や犬はほとんど症状を起こしません。ただ、猫の中にはまれに肺炎を起こす場合もあります。こちらも猫ひっかき病と同じく、引っかかれたり(グルーミングによって前足や爪に菌が移るため)噛まれたりすることで感染します。

原因は?

猫の口内に100%存在している常在菌、パスツレラ菌に感染することで発症します。傷口以外にも、パスツレラ菌を吸い込むことで感染してしまうこともありますので、注意が必要です。まれですが、猫から猫に感染して肺炎を起こす場合もありますので、猫同士のケンカも激しい争いにならないよう適度に人が仲裁しましょう。

症状は?

噛まれた部位が早ければ数時間で赤く腫れ、痛みや発熱を伴います。猫ひっかき病のようにリンパ節が腫れることもあり、放置していると皮下組織の中を広がり蜂窩織炎を引き起こし、骨に達してしまうと骨髄炎を起こします。また、噛まれていなくてもパスツレラ菌を吸い込んで呼吸器系が感染してしまうと、肺炎・気管支炎・副鼻腔炎を起こすこともありますので気になる症状が見られたら猫に噛まれた、猫と暮らしていることを医師に伝えて診断を受けましょう。

治療法は?

抗生物質を投与して原因菌を排除します。猫ひっかき病と同じく、できるだけ早く治療を行えば重症化を防ぐことができます。前述しましたが、免疫力の低下しているご高齢の方や糖尿病・免疫不全などの持病を持っている方は体の防衛機能が弱っているために重症化しやすいです。猫と接する場合には十分注意しましょう。

猫ひっかき病(バルトネラ症)予防のために何ができる?

引っかかれたり噛まれたりしないよう注意することが肝心ですが、一緒に暮らしている中で遊びに夢中になった猫に引っかかれてしまうことは、あり得ることです。もしも猫にひっかかれたり噛まれたりしてしまったら、速やかに水で手を洗って菌を洗い流し、石けんを使って傷口に侵入した菌を浮かせて洗い流しましょう。傷口が深く出血が止まらない場合は清潔なガーゼやタオルで15分くらい圧迫止血を行います。その場合、中に菌が入り込まないように、水で洗い流した直後に止血を行うようにしましょう。また、消毒液で消毒しておくことも有効です。

他にも生活の中で予防できることを詳しくお伝えします。

完全室内飼育

猫の体内に猫ひっかき病の原因であるバルトネラ菌は常在していません。つまり、ネコノミに寄生されないように注意することで予防できるのです。家と外を出入りする猫には危険が付きまとい、ネコノミだけでなく他の病気や事故なども心配です。完全室内飼育で猫の安全と共にネコノミの感染を予防しましょう。

定期的な爪切り

ひっかかれた傷口から感染してしまうため、爪は適度な長さに切っておきましょう。人の安全だけでなく猫も、室内でレースカーテンに引っかかって取れなくなり無理に引っ張って怪我をする、などの心配が無くなります。そうは言っても大体の猫は爪切りが大嫌いですね。慣らそうと躍起にならず、無理なく切れる時に一本ずつ切るのでも十分です。逆に抑え込んで一生懸命やってしまうと、猫から「嫌なことばかりするヤツ!」と嫌われてしまうかも知れないので、ご注意下さい。筆者と暮らす猫も爪切りを持った瞬間に物凄いスタートダッシュで逃げて行くため、不意打ちで一本ずつ切っています。

駆除薬の投与

外から保護したばかりの猫は必ず、病院でネコノミの寄生も含めた検査をして貰いましょう。その上でネコノミがいた場合には駆除薬を投与してネコノミがいなくなるまで続けます。また、すでに一緒に暮らしている猫にネコノミが寄生していた場合は室内の徹底清掃も肝心です。最低でも3週間に1度は習慣として行いましょう。

  • ネコノミの住処となる埃を徹底的に掃除機で吸い取る

特にソファ・カーペット・猫のベッドなど。埃のたまりやすい家具の裏側まで徹底的に!

  • 掃除機には殺ダニ用のゴミパックを使用する
  • 使い終わった掃除機の吸い取り口、フィルターも消毒

スプレータイプのノミ駆除薬を吹きかけておきましょう

  • 燻蒸・燻煙タイプの殺虫剤で成虫を駆除

卵とさなぎには効きませんが、成虫を駆除できるので定期的に行うと予防として効果があります。ただし使用後の換気をしっかり行いましょう。また、魚や昆虫には強力な毒性を発揮するため、使用後直ぐに部屋へ戻すと命の危険があります。使用後3日は部屋に戻さない方が安心です。

  • 電池式のノミ誘引剤などで取り切れなかったネコノミを徹底駆除

猫ひっかき病を媒介すると言われているネコノミは、とてつもないジャンプ力の持ち主です。2~3㎜しかない体長で15~30㎝ジャンプできます。掃除機でも取り逃がすかもしれませんので、光に吸い寄せられる性質を使ったノミとりホイホイで徹底的に駆除しましょう。

日頃からブラッシングの際にも猫の皮膚状態に異常が無いかよく観察することも大切です。ネコノミの駆除を終えても、室内で暮らしているから大丈夫と油断できません。定期的にノミ取りシャンプーで洗う、病院で予防薬を処方して貰うなど、対策が必要です。

むやみに野良猫に触らない

野良猫はすでにネコノミに寄生されている可能性が高いです。ひっかかれたり、噛まれたりしていなくても、ネコノミを貰ってしまい家に持ち帰ってしまう可能性もあります。いくら可愛くて人懐こい子であったとしても、むやみに野良猫に触らないようにしましょう。

愛猫とのキス・口移しは禁止!

ひっかかれたり、噛んだりされなければ大丈夫、とキスや口移しの食事など濃密な接触は避けましょう。傷口からの感染だけでなく、口腔内にもバルトネラ菌は存在しており、経口感染の例もあります。

また、猫からの感染だけでなく人からの感染についても注意しましょう。例えば、30代以上で3人に2人の方がかかっていると言われる歯周病は人獣共通でうつる感染症です。猫の健康を守るためにも、濃密過ぎるスキンシップは控えましょう。

まとめ

猫ひっかき病は重症化すると本当に怖い病気ですが、人の細かな習慣によって十分予防できる病気です。過度なスキンシップは危険ですが、甘えん坊な猫ならいくらでも抱っこしてあげて欲しいですし、抱っこ苦手でもやんちゃで遊ぶのが大好きな猫なら楽しく安全に遊べるおもちゃで延々と遊んであげて欲しいです。スキンシップの方法は猫に合わせて楽しめる方法を、その子の性格をよく見て一緒に考えていきましょう。それもまた、猫と暮らす醍醐味ですからね!

執筆者
東京出身、長野県在住のアパレル勤務兼ライター。 仕事に燃えに燃えていたが、ある日ふと「人ってストレスで死ぬんだよなぁ」と思い、絶対に叶えたい夢を一つ現実のものとする。 久しぶりに猫と暮らしたい、その夢を叶えたら次々に夢という名の野望が出てきて一歩一歩叶えている最中。 現在、猫と暮らす猫のための家を建てたい、最終的に小説家兼ライターに肩書きを変えたいという野望に燃えている。