猫が白目をむいて爆睡している。思わず呼吸しているか確かめてしまう、ほほえましいような恐ろしいような日常ですね。白目っぽく見えるそれは、実は白目では無く瞬膜という別物です。人の目にはない不思議な瞬膜は、大きくて愛らしい猫の目を守る白い騎士なのです。
猫の「瞬膜」ってなんだろう?
人の目は上下2つのまぶたがあるだけですが、猫の目には上下2つの他に、もうひとつのまぶたが存在しています。それが、瞬膜です。正式名称は第三眼瞼(だいさんがんけん)と言います。一般的な瞬膜という名の由来は、目の内側から一瞬出てくる膜だから、と考えられています。瞬膜は白目と思われがちですが、猫の白目とは瞳の端に僅かながら見える部分のことです。
猫の瞬膜があるのはなんのため?
猫の目は厳重に3つのまぶたで守られており、最後の砦である瞬膜には目を保護する・乾燥から守る役割があります。猫だけでなく、両生類や一部の魚類、鳥類、は虫類、霊長類の一部も目に瞬膜を持っています。
- 目の乾燥を防ぐ
猫はあまり瞬きをしませんが、人のようにドライアイになることはなく、常に潤っていて美しいです。そこで頑張っているのが瞬膜。瞬膜は涙の40%を生産し、1回の瞬きで効率良く水分を行き渡らせ、乾燥から目を守っています。
- 異物が入るのを防ぐ
まつげに見える『アクセサリーアイラッシュ』が上まぶたにしか無い猫は、目に異物が入りやすく、それを補うのが瞬膜です。瞬膜には角膜を傷つけないように瞬間的に出て目を守る働きがあり、外部からの衝撃を最低限に抑えてくれます。また瞬膜は目に入った異物を外に出す働きがあるので、茂みに潜んで獲物を狙う時なども瞬膜が目を保護してくれています。
- 感染症を防ぐ
目の表面にはたくさんの細菌や真菌(カビ)が存在しています。瞬膜の表面はリンパ小胞で覆われており、抗体などの免疫媒体物質を涙と一緒に分泌して目を潤す役割を果たしています。いわば感染症を防ぐ天然の目薬として働いているのです。
瞬膜の健康な状態とは?
瞬膜は白くて薄い膜状で、目を閉じると一緒に閉まり、開くと見えないところに収納されます。まぶたは上下に動きますが、瞬膜は目頭および目尻から中央に向かって閉じます。健康な猫の場合、目を開いている時は瞬膜が目頭や目尻に少し見える程度ですが、まれに眼球を動かすときに瞬膜も一緒に動くことがあります。
寝ている猫の瞬膜が出るのは大丈夫?
初めて見ると驚くかも知れませんが、大丈夫です。瞬きをしたり、眠ったりして、まぶたを閉じている時は瞬膜も一緒に目の表面をおおいます。そのため、猫が眠くなってウトウトしている時や寝起きでボンヤリしている時など、表面のまぶただけが緩んで開くと瞬膜が見えることがあります。人でいうところの、半目で寝ぼけているだけなので問題ありません。
赤い、戻らない、片目だけ出る…瞬膜の症状いろいろ
普段はほとんど見えず、寝ぼけている時などにしか見られない瞬膜が、普通に目を開いている状態で長時間出たままになっているのは猫の体調に何らかの異常がある可能性が高いです。まずは瞬膜が出ているのは片目なのか両目なのか確認をしてください。片目だけの場合には、目の病気、ゴミが入った、眼球に傷がついた、などの可能性が高いのですが、両目の瞬膜が出ている場合には全身の病気の可能性があります。瞬膜に以下の症状が見られたら、様子見せずに病院で診て貰いましょう。
瞬膜が赤くなっている場合
通常は白く、薄い膜状である瞬膜が、赤やピンクに見える場合があります。その場合は眼球が傷付いている、細菌に感染して炎症を起こしている、などが考えられます。
瞬膜が戻りにくい場合
炎症を起こして腫れている、瞬膜を支える軟骨に異常があると戻りにくくなります。猫が目を開けている時も瞬膜が目の半分くらいまで出ている、長時間出たままになっていることもあります。
瞬膜が出たままになっている、片目だけ出ている場合
瞬膜が炎症を起こしている、瞬膜を固定する結合組織が先天的に無い、あっても弱い場合にも瞬膜が出たままになってしまうことがあります。他にも、
- 瞬膜や目の周辺組織に腫瘍ができている可能性がある
- 瞬膜だけでなく、くしゃみ・鼻水が出る・片方だけ鼻血が出るなどの症状も見られたら、鼻の中に腫瘍ができている可能性がある
- 脱水症状を起こして眼球が陥没し、瞬膜が出ている
など、深刻な病気が隠れている可能性もあります。気になる時は直ぐに獣医師の診断を受けましょう。また、引っ越しをするなど長時間の移動や環境変化のストレスで病気ではないが瞬膜が出たままになってしまうこともあります。一時的なものなので、ゆっくりと休ませてあげましょう。
猫の瞬膜の症状、こんな病気が原因?
猫の瞬膜に表れる症状は、主に炎症などの目そのものの疾患、神経の麻痺によるもの、周辺組織の腫瘍など様々です。目だけでなく他の病気が潜んでいる可能性もありますので、気になる症状がある時は早めに病院へ連れて行きましょう。
結膜炎が原因の場合
- 症状は?
結膜が赤い、まぶたが腫れる、目を気にしてこすろうとする、涙や目やにが多いなどの症状が表れます。比較的若い年齢の猫で起こりやすく、生まれて間もない子猫が目を開く前に結膜炎を起こすとまぶたや瞬膜が癒着したり、目が正常に成長しなかったりすることもあります。
- 原因は?
主な原因は猫ヘルペスウイルス、猫カリシウイルスなど、一般的に猫風邪と呼ばれる感染症が原因の場合が多く、アレルギーや異物、外傷、他の病気が原因で併発することもあります。
- 予防はできる?
主な原因である猫ヘルペスウイルスなどを予防するワクチンを接種しましょう。すでに感染したことのある猫でも、定期的にワクチンを接種することで再発時の症状を軽くできます。免疫力の低下によって再発しますので、ストレスの少ない環境を心がけましょう。
目に怪我をしないように、完全室内飼いをして事故やケンカを防ぎます。多頭飼いの場合は、それぞれがプライベートエリアを確保できるように、お気に入りの場所や逃げ込める場所を作ってあげましょう。
- 治療法はある?
原因となっている病原体に効果のある点眼薬を使用します。投薬治療の他、目の周りを清潔に保つことも大切ですので、湿らせたコットンなどで目やに・涙を優しく拭いてケアしてあげましょう。他の病気を併発している場合は、それらの治療もあわせて行います。
角膜炎が原因の場合
角膜炎とは、猫の目の表面部分を覆い保護する役目の角膜が、喧嘩やじゃれあいで傷がつく、アレルギーや感染症で炎症を起こしてしまうことです。炎症を起こすと、瞬膜が出て戻らないことがあります。
- 症状は?
角膜の表面には角膜上皮があります。この角膜上皮には、角膜の知覚を感受するセンサーの役割があり、角膜が炎症すると強い痛みが起きます。また、角膜に受けた傷が深い場合には、「角膜潰瘍(かくまくかいよう)」と呼ばれる状態になり、重症度は傷の深さによって増します。角膜を完全に貫く傷ができた場合は「角膜穿孔(かくまくせんこう)」になり、眼球内部の光彩が角膜に癒着することもあります。強い痛みを感じるため、目を開けにくそうする、涙の量が増加するなどの症状が出ます。炎症が進むと充血が見られ、さらに炎症が進むと角膜自体がむくみ、瞳が白く濁ったように見えます。角膜炎の原因が感染症からくるものであれば、目やにが増えます。
角膜炎で注意しなくてはいけないのが、時間が経過すると角膜に血管が分布する「角膜パンヌス」という状態です。角膜パンヌスは一度形成されると、状態に合わせたケアが必要になります。
- 予防はできる?
角膜炎にならない環境を整備することが予防法になります。他の猫との喧嘩やウイルス感染を防ぐために、完全室内飼育を徹底する、ワクチン接種をすることで角膜炎のリスクを減らすことができます。
- 治療法はある?
角膜炎の治療は早期発見・早期治療が重要になります。具体的な治療法としては、角膜の修復、炎症を抑える、感染のコントロールになります。角膜炎が軽度であれば点眼薬で、角膜の修復に必要な成分を補います。抗炎症剤や抗生物質も併用することもあります。猫カゼやアレルギーなどの他の病気が原因の場合は、原因となっている病気の治療も同時に行います。角膜潰瘍や角膜穿孔を起こしている場合には、外科的処置を行います。
チェリーアイ(第三眼瞼腺逸脱)が原因の場合
瞬膜の奥にある瞬膜腺がひっくり返って瞬膜ごと外側に出てきてしまい、赤く腫れ上がります。飛び出た瞬膜は小さいサクランボのように赤っぽく膨らんで見えるため、チェリーアイと呼ばれています。犬に多い病気で、猫では珍しく、症例は多くありません。飛び出た瞬膜を掻いてしまうなどの刺激によって結膜炎・角膜炎を併発することも。
- 症状は?
瞬きが増える、目やにが出る、涙を多く出すようになります。しきりに前足で顔をこすり、痒みをやり過ごそうとするそぶりが見られます。角膜炎など目の中の病気と異なり外部に瞬膜が出ているので、家具にこすりつけるなどして更に炎症が悪化する可能性が高いです。症状が見られたら直ぐに病院へ連れて行きましょう。
瞬膜を固定している組織が遺伝的に弱い・欠損していることで起こると考えられています。また、炎症・外傷・腫瘍などが原因で起こることもありますが、それらにあてはまらず原因不明のこともあります。遺伝的な原因の場合、2才以下の若い猫が発症する例が多いです。猫種ではバーミーズ・ペルシャなどの品種で発症が確認されています。
遺伝が関係していない後天性のチェリーアイは、どの猫種・年齢でも発症することがあります。
- 予防はできる?
瞬膜が飛び出してしまうことを完全に予防することはできません。発症した場合は早期発見、早期治療が大切です。
- 治療法はある?
軽度の場合は瞬膜を手で押し込んで元の位置に戻し、抗生剤や抗炎症剤で炎症を抑えます。ただし、炎症が悪化する恐れがあるため、自己判断で瞬膜を元に戻そうとするのは絶対にやめてください。
再発した場合や重度の場合は手術が検討されます。手術法はいくつかありますが、瞬膜や瞬膜腺を全て取り除く方法だと涙量が減ってドライアイになり、炎症を起こしやすくなってしまうため、現在は瞬膜の固定や縫合を行うだけの部分的な施術が推奨されています。猫の症状に合わせて、今後どのようにしたら快適に過ごしやすくなるのか、獣医師とよく相談しましょう。
ホルネル症候群が原因の場合
ホーナー症候群とも呼ばれ、目やまぶたを司る交感神経の障害によって発生する病気です。
- 症状は?
瞬膜が飛び出る、まぶたが眠そうに下がる、瞳孔が片側だけ極端に小さくなる、目が落ちこむ(眼球の陥没)などがみられます。多くの場合、片目に発生します。神経に障害が起こった部位により、足の麻痺・顔面麻痺などを併発することもあります。
- 原因は?
ホルネル症候群は、外傷・中耳炎・脊髄損傷・椎間板突出・腫瘍・感染症などさまざまな原因で起こると考えられています。猫の場合、原因不明の突発性と診断されることが多いですが、腫瘍・閉塞・事故による外傷など命に関わる病気が原因の場合もあるため、気になる症状があれば直ぐに病院で治療を受けましょう。
- 予防はできる?
原因不明なことが多いので、発症を完全に予防することは非常に難しいですが、交通事故による外傷が原因となるものは完全室内飼いの徹底をすることで防ぐことができます。また、中耳炎も原因の一つなので、猫が耳を痒がる・耳垢が多い・耳がくさい・しきりに頭を振るなど耳の病気を疑う症状がある場合は早めに病院へ連れて行きましょう。
- 治療法はある?
原因となっている病気の治療を行います。原因が特定できない場合は経過観察を行うことも多く、3~4ヶ月で症状が引くと言われています。
脱水症状が原因の場合
消化不良で酷い下痢になると脱水症状を起こすことがあります。脱水症状になると眼球がへこみ、瞬膜が出た状態になります。脱水症状は消化不良だけでなく、栄養不良や風邪でも起こることがあります。
猫の瞬膜トラブル、治療法はあるの?
瞬膜トラブルの原因を突き止め、適切な治療を受けましょう。瞬膜が出ていても猫がそれほど気にしないこともありますが、長時間露出している部分が乾燥したり、違和感から目の付近を掻いて傷つけてしまったりすることがあります。状態が悪化してしまう前に早めの治療が肝心です。瞬膜トラブルは点眼薬を用いた治療が主ですが、瞬膜トラブルを引き起こした原因である病気の治療も同時に行います。
瞬膜トラブルで特に注意が必要なのは、眼球癒着です。目が開く前または開いた直後の子猫が猫ヘルペスウイルスが原因の角膜炎や結膜炎になると、瞬膜が眼球に癒着してしまい、最悪の場合には視覚を失うこともあります。眼球癒着の治療は、綿棒やピンセットを用いて癒着している瞬膜をそっと剥がしていきますが、再癒着することが多いため一度の治療では終わらず、何回かに分けて行う必要があります。また、瞬膜の癒着が酷く剥離ができない場合には、切開手術を行うことがあります。切開手術をしても、瞬膜の再癒着の可能性はあります。
猫の瞬膜トラブルに気づいてあげるためには?
人は目を見て話す習性がありますので、自然と猫の目もたくさん見る機会があります。どういった状態が正常であり、普段と何が違うのかを知るためにもコミュニケーションを取りながらよく観察しておきましょう。ただし、猫はずっと目を見られていると「ケンカを売られている」と感じてしまうので、いくらキレイでもジッと見つめるのは、ほどほどにしましょう。
瞬膜の色で気づく
白く薄いのが正常です。赤い、ピンク色などになって腫れている場合は病的な原因があります。
左右のバランスで気づく
片目だけ極端に瞳孔が小さい、瞬膜が出ている、目の大きさなど、左右差が無いか確認しましょう。
瞬膜以外の症状で気づく
目の病気は症状が一つだけでは無い場合が多く、瞬膜以外の目全ての観察を行いましょう。白目が赤くなっていないか、涙が多くなっていないか、目やにの色や量といった目全体の確認をします。また、ふらふらした歩き方、元気がない、脱水症状など、目以外の症状が出ることもあります。
意外に難しい、猫に目薬をさすコツとは?
猫は基本的に薬という薬全てを嫌っています。当然ですが、それが自分の体を治す力を持つものだと知らないからです。目薬のさし方は、かかりつけの獣医師が詳しく教えてくれるので実際に見せて頂き、こちらではできる限り猫にストレスを与えず、目薬をさすコツを紹介致します。
- 心構えは、ゆったりと
こちらが緊張していると、猫は鋭いので「嫌な気配を感じる!」と逃げてしまいます。絶対にやるぞ、という意気込みは捨て、猫におやつを食べさせる程度のリラックス感を装いましょう。
- タイミングを計る
猫がリラックスして寛いでいる時が狙い目です。優しくアゴをなでてあげると自然に顔が上を向くので、やりやすいです。なかなかリラックスしてくれない時には、いったん諦めて遊びに付き合ってあげましょう。満足いくまで遊んで休んでいる時が目薬をさすチャンスです。猫は休憩を取るのが上手な生き物ですので、必ずタイミングがきます。焦らずに猫のペースに合わせてチャンスを待ちましょう。
- プロから直伝を受ける、動画を見る
目薬をさすのが初めてだと獣医師に伝えれば、必ずやり方を教えてくれますので、しっかりとコツや注意点を聞きましょう。目薬の容器を猫の毛などに触れさせてしまうと雑菌が繁殖してしまうため、少し高め(1センチくらい)からポタリと落とすのが良いです。獣医師による動画配信などもありますので、何度も繰り返し見て自信を付けましょう。病院によってはその場で動画を撮らせて貰うことも可能です(使用している機器の問題がありますので、スマホの持ち込みが可能か必ず確認しましょう)
- 連携を取る、おやつ作戦
2人以上の人手がある場合は、1人が猫を優しく抱っこし、1人が薬を担当するとやりやすいです。1人でも、タオルなどで包むと安心するタイプの猫なら包んであげるとやりやすいでしょう。頑張ったごほうびに、大好きなおやつを少しだけあげるのも良いです。
筆者の場合ですと、薬をあげる前に「薬を頑張る○○さんは、かっこいいです!」と気分をあげて、薬を飲んだ後も盛大に褒めておやつをあげています。この事前に気分をあげて、直後にほめるのは、薬をあげる側もリラックスできますので、ぜひご活用下さい。
まとめ
人には存在しない第3のまぶた、瞬膜。猫が生きていく中で必要だったのは、砂漠で暮らす生態からでしょうか。大切な目を何が何でも守る為に頑張っている体の一部だと思うと、半目で寝ている姿すらも愛おしく感じてしまいますね。猫の目のトラブルは意外と多く、深刻な病気が関わっている場合もありますので日頃から健康な状態を知った上で観察を続けるのも大切です。小さなかわいい家族を大切に守ってあげて下さいね!