みなさんは寄生虫について考えたことはあるでしょうか。生魚やイカに寄生虫の1種であるアニサキスがいることがあるのは有名かもしれませんが、寄生虫の種類によっては猫に感染し、さまざまな病気を引き起こすリスクがあります。今回は、そのような猫に感染する寄生虫についてお話しします。
猫の寄生虫は2種類!
一般的に、猫に感染する寄生虫はその寄生部位によって2種類に大別されています。
外部寄生虫
外部寄生虫は猫の皮膚や被毛のような体の外部に寄生するタイプの寄生虫で、ノミやダニなどが該当します。
内部寄生虫
内部寄生虫は猫の体内や内臓のような体の内部に寄生するタイプの寄生虫で、回虫や条虫がこれに該当します。
猫に多い外部寄生虫の種類と原因・症状
まずは外部寄生虫について紹介します。外部寄生虫は寄生した猫から他の猫へと感染を広げることがあるため、寄生が発覚した際は速やかな対処が必要です。多頭飼いしているご家庭では特に注意が必要となります。
ノミ
猫に感染するノミは「ネコノミ」と呼ばれる種類で、体長が1〜2mmと目視では確認するのが難しいほど小さな寄生虫です。ノミは猫だけでなく犬や人間にも寄生し危害を加えることがあるので注意が必要です。
原因
猫がノミと接触することで寄生します。知らぬ間に外から飼育環境へとノミを持ち込んでしまい、感染するケースがあります。ノミは室内環境では季節に問わず繁殖することができるため、年間を通じて対策を施す必要があります。
症状
ノミに寄生されると、ノミが吸血した際に注入する唾液に対してアレルギーを起こしてしまいます。激しい痒みや脱毛、発疹が症状として現れます。また、他の病気を引き起こす危険性もあるため、飼い猫がノミに感染していることが判明した際には早期の対処が必要です。治療にはノミの駆虫薬や、アレルギー症状に対する投薬が行われます。
マダニ
マダニは日本全国に生息している寄生虫です。マダニの成虫は赤い体色を有しており、肉眼で見えるほど大きくさまざまな感染症を媒介します。
原因
マダニが猫に飛び乗ることで付着し寄生します。特に屋外で生活している猫は草むらや木などに生息するマダニに寄生される可能性があります。マダニは寄生すると皮膚に噛みつき、吸血をします。猫にマダニが吸血しているのを見つけた際、無理にマダニを取ろうとすると胴体が千切れてしまい、頭だけが体内に残ってしまう可能性があります。自分の判断で取るのではなく、動物病院で適切な処置を受けましょう。
症状
マダニが媒介する感染症は多く、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)やライム病、猫ヘモプラズマ感染症などがあります。感染症によって症状は様々ですが、発熱や食欲不振などがあらわれます。感染症以外にも痛みや痒み、皮膚炎が症状としてあらわれます。治療にはマダニに効果のある駆虫薬が処方されます。感染症を引き起こしてしまった場合は、感染症に応じた投薬が行われます。
耳ダニ
耳ダニはダニの1種で、ミミヒゼンダニとも呼ばれます。目に見えないほど小さなダニで、強い伝染力を持っています。感染した猫から猫へとうつるため注意が必要です。
原因
屋外から連れ込んでしまった、もしくは他の猫に寄生していた耳ダニがうつり、外耳道から鼓膜にかけて寄生します。耳ダニの寄生が疑われた際は、隔離などを行い他の猫へと移らないようにしましょう。
症状
耳ダニが耳に寄生すると黒い耳垢が発生します。強い痒みを伴い、頻繁に耳をかくような仕草が見られるようになります。悪化すると耳が赤くなったり、出血が見られたりするようになり、耳血種を併発することがあるため速やかに対処する必要があります。治療には耳ダニに対する駆虫薬が処方されます。
ヒゼンダニ
ヒゼンダニは猫や人間に寄生すると、皮膚疥癬症と呼ばれる症状を引き起こすダニです。ヒゼンダニは疥癬トンネルと呼ばれる穴を皮膚に作り、そこに寄生し成長・繁殖を行う感染力の強いダニです。
原因
ヒゼンダニは寄生した人間や猫から他の猫へと感染を広げます。特に多頭飼育の環境下では、感染の疑いがある猫は隔離して、他の猫にヒゼンダニを広げないよう注意する必要があります。
症状
激しい痒みや皮膚炎が症状として現れます。治療にはヒゼンダニを駆除するための駆虫薬が処方されます。
猫に多い内部寄生虫の種類と症状
ノミやダニとは異なり、猫の体内に寄生する内部寄生虫は具体的にはどのような寄生虫がいるのでしょうか。
回虫
回虫は白い糸状の寄生虫で、体長は5cmから10cmほどあり、主として腸に寄生し、タンパク質や炭水化物を利用し成長・繁殖します。回虫には猫回虫、犬回虫、犬小回虫などがいます。
原因
回虫の感染の一つの経路として、回虫の卵を口にしてしまうことあげられます。回虫の種類によって口から体内に侵入した後の挙動は異なりますが、最終的には腸内で成熟し卵を産むようになります。卵は糞便中に排出され、それを他の猫が誤って口にすると感染してしまいます。他にも、母子感染する場合や、回虫に感染した生き物を口に含んだり、食べたりした場合に感染します。
症状
回虫に感染していても、多くの場合は特に症状の現れない不顕性感染となります。しかし、体内に多くの成虫が寄生すると腹痛や下痢、嘔吐、食欲不振などを引き起こします。治療には駆虫薬が用いられますが、腸内にいる成虫には効果があっても回虫の卵には効果がないことがあります。そのため、ほとんどの場合は2週間以上の間隔を空け、数回投与する必要があります。
瓜実条虫
瓜実条虫とは条虫の1種で、いわゆるサナダ虫のことです。中間宿主となっているノミは日本全国に広く存在しているため、瓜実条虫は条虫の中で最も多く見られます。瓜実条虫は腸内で成長・繁殖をします。
原因
瓜実条虫の幼虫に感染しているノミを、猫がグルーミングなどで舐めてしまい、口の中に入ることで感染します。
症状
回虫と同様に不顕性感染が多いのですが、体内で瓜実条虫が成長すると腹痛や下痢、体重減少などを引き起こします。また、腸内で切り離された米粒状のサナダ虫の一部(片節)がお尻の周りや糞便中に見られるようになります。そのような米粒状の異物に気がついた際は、ティッシュ等で取って動物病院へ持って行き、確認してもらいましょう。治療には条虫に対する駆虫薬が処方されますが、同時に感染の原因となっているノミの繁殖を防ぐ対策を施すことも重要です。
マンソン裂頭条虫
マンソン裂頭条虫は条虫の1種で、瓜実条虫とは異なり、中間宿主がケンミジンコとカエル・ネズミです。。うどんを平たく潰したような形状をしていて、猫の腸内で1メートル以上に成長することがあります。
原因
マンソン裂頭条虫に感染したケンミジンコを、カエルやネズミが捕食し、それを猫が捕食することで感染します。
症状
不顕性感染が多いのですが、腸内で成長・繁殖が続くと、下痢や嘔吐などが症状として現れます。感染には、猫のおしりからうどんのような紐状の異物が出て来ることで判明することがあります。治療には駆虫薬が用いられますが、他の条虫と比べて多くの投与量が必要となります。
原虫(コクシジウム)
原虫のうち、数種の原虫を総じてコクシジウムと呼称されています。主に腸の細胞に寄生し、成長・繁殖を行います。
原因
コクシジウムとの接触が主な感染経路です。コクシジウムは感染した猫から便と共に排出される際に「オーシスト」と呼ばれる、卵のような状態を形成して糞便と一緒に排出されます。そのオーシストを誤って口にしてしまった場合、感染してしまう可能性があります。
症状
コクシジウムは感染直後に症状があらわれるのではなく、潜伏期間を経てから症状をあらわします。主な症状として下痢や嘔吐が見られます。成猫のような免疫力が十分に備わっている猫であれば発症せず、多くの場合は不顕性感染となります。しかし、ストレスや他の病気が原因で免疫力が低下している場合には、症状があらわれることもあります。治療には駆虫薬が用いられ、下痢や嘔吐などがある場合には、その症状に合わせた治療も行われます。
こんな子は気を付けて!寄生虫感染リスクの高い猫とは?
ここまで紹介した様々な寄生虫ですが、どのような猫に寄生虫感染のリスクが高いのでしょうか。
外部寄生虫の感染リスクが高い猫
野良猫や外出をする猫は、外部寄生虫・内部寄生虫の両方への感染リスクが高いといわれています。野良猫を保護して飼育する場合や、室内と室外を自由に行き来する猫を飼育している場合には、猫の健康のためにも動物病院での検査と定期的な駆除をおこないましょう。
子猫の時期は免疫量が未成熟であるため、外部からの病原体に対する防御機能が低く、ノミやダニなどの寄生虫に寄生されると、それらが媒介する感染症にかかるリスクが高くなります。感染リスクが高いだけではなく、感染後に重症化してしまうケースがあるため、子猫を飼育する環境は外部寄生虫に対する予防を施す必要があります。
他にも、同居している犬が散歩中にノミやダニに寄生され、そのまま室内へ持ち込んでしまうこともあります。
内部寄生虫の感染リスクが高い猫
子猫は外部寄生虫だけでなく、内部寄生虫の感染リスクも高いとされています。成猫では感染しても不顕性感染で済むような場合でも、子猫の場合は発症し、様々な体調不良を引き起こす恐れがあります。
また、外で暮らしている野良猫は、例え健康体であってもお腹に寄生虫が寄生している可能性があります。そのような猫を迎え入れる場合は、被毛中のノミやダニの確認だけではなく、動物病院に連れて行き、体内に寄生虫がいないか検査を受けましょう。
寄生虫から猫を守るための予防法は?
例え感染リスクが高くなくても、対策を施し予防することが大切です。実際にどのような対策をすれば良いのか、確認していきましょう。
外部寄生虫に対する予防法
ノミやダニのような外部寄生虫が繁殖しにくい環境を作ることが重要です。一般的にノミやダニは気温と湿度が上昇する梅雨〜晩夏に繁殖を盛んに行います。しかし、室内のような環境では1年を通して繁殖することができます。布団や毛布のような繊維が多いものは身を隠すのに適しており、皮質や食べこぼしなどが付着していると栄養源として利用されてしまいます。そのような環境を作らないようにするため、布団や毛布を定期的に干したり、乾燥させたりすることが有効です。猫が好んで使っているような布団やベッドに関しても同様に、乾燥させることによって繁殖を防ぎ、寄生や感染を未然に防げるように努めましょう。
また、外から飼育環境中にダニを持ち込まないよう注意することや、ブラッシングやシャンプーをすることで猫の被毛に潜むノミやダニを取り除くことも有効です。
猫からノミやダニを遠ざける予防薬もあり、猫の首元に滴下するスポットオンタイプや飲み薬のタイプなど数種類あります。どのようなタイプが良いのか、投与する時期はいつ頃が良いのかは、かかりつけの獣医師に相談すると良いでしょう。
内部寄生虫に対する予防法
それぞれの内部寄生虫における共通の感染経路として、原因となる寄生虫を口にしてしまうことが挙げられます。そのため、原因となる寄生虫や、その寄生虫に感染している中間宿主を飼育環境中から除去することが有効です。例えば、瓜実条虫の中間宿主であるノミの駆除を行うことで、瓜実条虫の予防につながります。他にも、完全室内飼いにすることでカエルやネズミを捕食しないよう注意することや、糞便中にはコクシジウムのオーシストが含まれているかもしれないため速やかに処理をするなど、飼育環境を整えることが予防につながります。
また、動物病院によっては投薬による「定期駆虫」を推奨している病院もあるため、気になる方はかかりつけの動物病院に相談してみましょう。
補足:オーシストはとても頑丈で普通の消毒液では死滅しないので、トイレや掃除に使った用具は熱湯を用いて消毒しましょう。
まとめ
今回は寄生虫についてお話しさせていただきました。どの寄生虫も猫から猫へ、人間から猫へと感染が広がってしまう恐れがあります。先程記したように、重要なことは寄生虫を飼育環境中に持ち込まないこと、繁殖しにくい環境を作ること、適切に取り除くことです。そのような対策や処置を施すことで飼育環境が整い、猫も人間も快適な暮らしを過ごせると良いですね。