猫のトキソプラズマ症の症状、検査、治療法を解説

猫の健康 ヒトにも感染する怖い病気「トキソプラズマ症」検査はできる?症状や治療法も解説!

執筆/春麦

皆様はトキソプラズマ症という病気をご存知でしょうか。もしかしたらお子様がいらっしゃる方であれば耳にしたことや、実際に検査を受けたことがあるかもしれません。今回はそんなトキソプラズマ症について紹介していきます。

猫の「トキソプラズマ症」ってどんな病気?

トキソプラズマ症は「トキソプラズマ」という寄生性原生生物(原虫)に寄生される事によって発症する病気で、人間にも感染する人獣共通感染症です。一般的には健康的な猫であれば発症することはなく、体の中に寄生虫がいる状態である不顕性感染となります。しかし、他の病気やストレスなどが原因で猫の免疫力が低下してしまった場合は、体温上昇や肝炎、肺炎などを引き起こすことがあります。特に母猫が妊娠時にトキソプラズマに初感染してしまった場合は、生まれてくる子猫に危険が及ぶため注意が必要です。

また、猫のトキソプラズマ症は人間にうつることがあります。人間の場合も同様に、妊娠中にトキソプラズマに初感染してしまうと、生まれてくる赤ちゃんに母子感染する恐れがあり、目や脳、肝臓の機能に障害が生じることがあります。そのため、妊婦さんが気をつけたい感染症の一つでもあります。

トキソプラズマに一度感染すると、その後体内にトキソプラズマは残存しますが、免疫は獲得しているため、健康的であれば特に症状が出ることはなく、心配する必要はありません。

猫の「トキソプラズマ症」原因は解っているの?

トキソプラズマ症の原因はトキソプラズマに感染することです。しかしその感染経路は先天性感染と後天性感染で異なっています。

先天性感染

母猫が妊娠前後にトキソプラズマに初感染しており、トキソプラズマが胎盤を経由して赤ちゃんに感染します。これは、母猫が「初感染である」ことが重要で、初感染時はトキソプラズマに対する免疫がないため、子猫に感染がうつる危険性があります。しかし仮に妊娠する以前にトキソプラズマに感染しており、すでに免疫を獲得している猫が妊娠した場合は、生まれてくる子猫に心配はいりません。

後天性感染

トキソプラズマに接触し、体内に入ることで感染します。トキソプラズマは人間や猫以外の哺乳類や鳥類にも感染し、感染した動物の生肉を食べてしまうとトキソプラズマが体内に侵入し感染します。

また、トキソプラズマに初めて感染した猫は、糞便中にトキソプラズマのオーシスト(卵のようなもの)を3週間ほど排出します。その糞便中に含まれるオーシストが他の未感染な猫の口に入ってしまうと、その猫は感染してしまいます。

人間の場合も同様に、加熱が不十分な肉を食べた際や、オーシストが含まれる猫の糞便を処理している際に、オーシストが口から体内にはいってしまうと感染します。

「トキソプラズマ症」の症状は?治療はできる?

猫にも人にも感染するトキソプラズマ症はどのような症状が現れ、どのように治療を進めていくのでしょうか。猫と人間、それぞれ分けてみていきましょう。

猫の場合

免疫機能が低下している猫に症状が出る

一般的には健康的な猫ではトキソプラズマに対して免疫機能が作用するため、症状が出ることはありません。しかし、栄養不足やストレス、免疫系疾患に罹患しており免疫機能が低下している猫に感染した場合は重症化し症状が現れる場合があります。主な症状としては、下痢、嘔吐、呼吸困難が現れ、ブドウ膜炎や白内障のような目の疾患を引き起こすこともあります。妊娠中の母猫が重症化した場合は流産や死産の危険性があります。

診断と検査方法

トキソプラズマ症の診断には、基本的にはトキソプラズマを検出する方法で検査を行います。

・糞便検査

糞便中に排出するオーシストの有無を確認します。しかし、糞便中オーシストは他の原虫である可能性も否定できないため、オーシストの有無だけではトキソプラズマ症であることは確定できません。

・血液検査

血液中のトキソプラズマに対する抗体価を調べることで、トキソプラズマに感染したことがあるかを診断することができます。しかし、今現在トキソプラズマに感染しているかどうかは1回の抗体検査では評価できません。継続的に検査を行い、抗体価を評価することで現在トキソプラズマに感染しているかを診断する方法もあります。

・眼底検査

目に異常が見られた場合は眼底検査を行い、眼球を観察します。

上記のような検査に加えてポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)という手法を用いて、トキソプラズマを検出する方法がとられることがあります。

補足:ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)

目的の遺伝子を増幅する方法。ウィルスや細菌、原虫のような微生物の検出に用いられることがある。

治療はできる?

トキソプラズマ症の治療は、トキソプラズマを除去する原因療法が行われます。トキソプラズマに対してサルファ剤などの抗菌薬やアジスロマイシン、クリンダマイシンのような抗生物質が投与され、症状の原因となるトキソプラズマを除去します。しかし、体内のトキソプラズマを完全に除去する薬は存在しないため、薬の投与によって症状が改善されていても、不顕性感染の状態になります。症状が現れた際にはその症状にあわせた対症療法も行われます。

人間の場合

感染部位によって症状が異なる

一般的にはトキソプラズマは健康的な人間では感染してもほとんど症状が現れることはありません。しかし場合によっては症状を表すことがあるため、ケースごとに見ていきましょう。

・妊娠中の女性が初感染した場合

この場合、胎盤を通じて赤ちゃんにも感染する可能性があります。しかし猫のトキソプラズマ症と同様に、「初感染」であった場合は生まれてくる赤ちゃんへの感染が懸念されますが、妊娠以前に感染しており、免疫を獲得していた場合は赤ちゃんへの心配は不要です。

・目に感染した場合

先天性感染の場合、目に発症する場合があります。主に視覚障害や眼痛、羞明などが主な症状として現れます。目に発症するケースは後天性感染の場合は稀なことです。

・脳で発症した場合

トキソプラズマの多くは不顕性感染であることを先述しましたが、体内に残存している際は神経系や筋肉内に身を潜めています。しかし、病気によって免疫力が著しく低下した場合や薬によって免疫力を抑えたとき、体内に残っていたトキソプラズマが再活性化し、トキソプラズマ脳炎を発症する可能性があります。トキソプラズマ脳炎は発熱や頭痛、意識障害、痙攣や麻痺などが症状として現れます。

また、上記以外にもトキソプラズマ症によって引き起こされる症状としてうつ病、恐怖心の低下、自殺の増加など人間の精神にも影響を与えている、との研究結果も報告されています。しかし現状では情報量が少ないため真偽のほどは解りません。今後研究が進むとさらに明らかになるかもしれません。

診断と検査方法

検査は症状や疑われる感染部位により対応した検査が行われます。

妊婦の感染を疑う場合は数種の抗体検査が行われ、赤ちゃんの感染リスクが評価されます。リスクが高いと判断された場合は羊水を用いた検査が行われることがあり、薬が処方されることもあります。

目に症状が現れている場合は眼底検査を行い、病変を確認します。しかし炎症が強くなると診断が難しくなるため、あわせて抗体検査が行われます。

脳に感染、発症が疑われた場合はCTやMRIを用いた画像診断や血液検査が行われます。

治療はできる?

健康な人間がトキソプラズマに感染しても治療の必要はほとんどありませんが、発症した場合は症状に対応した治療が行われます。

トキソプラズマ症が発症した患者の免疫が正常であればピリメサリンやスルファジアジンという治療薬を、免疫系に疾患があり免疫力が低下している患者が発症した場合は、患者の状態に応じて数種の治療薬が選択されます。

妊娠中に初感染した場合は、赤ちゃんの先天性感染によるトキソプラズマ症の発症を抑制するために、スピラマイシンという抗菌薬を分娩まで投与します。

目に症状が現れた場合は、その症状の評価に基づいて、ピリメタミンやスルファジアジン、ロイコボリンを投与します。

脳炎が発症した場合はピリメサリンを最短でも6週間投与します。

「トキソプラズマ症」予防は可能?

トキソプラズマの感染はどのように防ぐことができるのでしょうか。トキソプラズマに対するワクチンは無いので、自身で対策を施す必要があります。先天性感染は後天性感染を防ぐことで予防できるため、後天性感染を防ぐ方法を中心に確認していきましょう。

猫の場合

最近は室内飼いしているご家庭が多いかと思いますが、室内飼いを徹底することもトキソプラズマ症を予防するには効果的です。トキソプラズマに感染している動物の捕食による感染の予防や、土壌や水に存在するオーシストとの接触を避けることができます。

家で食事を与える際には、肉はしっかりと加熱したものを与えましょう。未加熱の肉にはトキソプラズマが潜んでいる可能性がありますが、加熱することによってトキソプラズマは死滅します。

人間の場合

人間への主な感染経路としては、「生肉」と「猫の糞」の2通りあります。

生肉中にはトキソプラズマが潜んでいる場合があるため、お肉を食べる際にはしっかりと加熱したものを食べましょう。また、火を通さず生で食べるような野菜や果物はしっかりと洗いましょう。

猫を飼育している家庭は、猫の糞便の処理に注意する必要があります。糞便中にオーシストが含まれている可能性があるため、手袋をして糞便を処理するなど対策が必要です。猫の手足に糞便がついている可能性があるため猫をキッチンに入れないことも予防につながります。トイレの内部や砂にオーシストが付着していることも考えられるため、定期的な消毒が必要です。オーシストはアルコールや次亜塩素酸のような通常の消毒液では死滅しないため、70℃以上のお湯を用いて消毒しましょう。また、屋外においてはトキソプラズマに感染した野良猫の排泄物が土壌中に存在している可能性があるため、ガーデニングのように砂や土を触る際は手袋をつける、作業後速やかに手を洗浄するなど清潔にすることが大切です。

まとめ

トキソプラズマ症は通常であれば大きな心配をする必要はありません。しかし、免疫力が著しく低下している場合は注意が必要な病気です。特に猫や人間が妊娠している場合は生まれてくる子猫や赤ちゃんに影響を及ぼす可能性があるため、不安があれば動物病院やかかりつけの病院に通院し診察を受けることをお勧めします。トキソプラズマの感染は日頃から注意することで予防でき、トイレの掃除や手を清潔に保つことは他の病気の予防にもつながるため、それらの点を見直すことで猫との快適な生活を楽しみましょう。

執筆者
保護猫の里親2年生です。三毛と茶トラに日々振り回されています。