「回虫症」をご存知でしょうか?
回虫とは腸内寄生虫の一種で、哺乳類の腸内に寄生する動物で、人間にとって最も身近な寄生虫でもあります。回虫には様々な種類がいますが、人間の他、ネコ、イヌ、ブタ、ニワトリ、ウシなどそれぞれに寄生する固有の回虫が存在します。
私達人間は、自分で症状を自覚し対処していく事ができますが、猫たちはそうはいきません。飼い主が責任を持って観察、予防、治療をしていく必要があります。
猫の回虫症ってどんな病気?
猫回虫または犬小回虫は猫に感染すると、小腸に寄生し栄養を吸い取って成長をします。5~10センチほどの白い糸状の成虫になると、メスはたくさんの卵を産み落とし、便と一緒に体外に排出されます。卵自体は感染力はないのですが、トイレの砂の中などで成熟すると、卵の中に幼虫がいる状態になり感染力が高まります。その上、成熟した卵は環境への抵抗力がとても強く、1年以上の長期に渡り感染力を維持する場合もあります。便と一緒に排出された卵を見つけ次第駆除したいところですが、卵はとても小さいため肉眼で確認することが出来ません。
回虫の卵、もしも猫の体内に入ると…
成熟した状態の猫回虫の卵を猫が口にしてしまうと、口から胃に到達し幼虫へ孵化します。幼虫は胃壁を破り血管内に侵入、そこから肺に到達すると気管を通り、また食道、胃、小腸と体内を回りそこで成虫となってたくさんの卵を産みます。
一方、犬小回虫の幼虫は十二指腸で孵化、そのまま腸粘膜に寄生し、成虫へと育っていきます。
卵は便と共に排泄され、また新たな宿主を待ちます。体内に取り込まれてから、猫回虫は6〜7週間、犬小回虫は2ヶ月のほどの期間で卵入りの便が排泄される様になります。
猫はどんな経路から回虫症に感染するの?
感染力が高く、とても厄介な回虫ですが、どのように猫に感染するのでしょうか。感染経路を知っておけば、対策が取りやすくなります。
回虫卵から感染する場合
排出された卵は、トイレ砂などの中で成熟します。成熟した卵の中には幼虫がいる状態となり、それを何らかの理由で口にしてしまう事で感染します。
母子感染する場合
母猫がすでに回虫症に感染し、幼虫が肺に寄生していると、そこから乳汁に入り込んでしまい授乳をする事で感染します。
待機宿主から感染する場合
体内に回虫を保有しているネズミや小鳥などを待機宿主といいます。猫がこれらを捕食する事で感染します。
回虫症にかかると、どんな症状が出るの?
寄生した回虫の数が少ない場合には、無症状のことが殆どですが、大量に寄生されると以下のような症状が現れます。
- 下痢
- 嘔吐
- おなかの膨れ
- 食欲低下
- 発育不全
他にも、嘔吐物や便の中に成虫が混じって出てくることもあります。
幼虫は猫の体内を移動する際、体内組織を傷つけます。大量の幼虫に寄生されている場合、肺を通るときに肺組織を傷つけ、肺炎を引き起こすこともあります。
健康な大人の猫の場合は症状が出ることはあまりありませんが、子猫の場合には重症化してしまうケースもあるので、早めの治療が必要となってきます。
猫の回虫症はどうやって治療するの?
回虫に寄生されているかどうかは、糞便検査を行い確認します。もし回虫症と診断された場合の治療法を説明します。
回虫の駆除薬による治療
回虫の駆除には、投薬が必要となってきます。薬の種類は、錠剤タイプ、シロップタイプの内服薬と、背中に垂らすスポットタイプがあります。市販されているものもありますが、症状の重さ、猫の年齢や健康状態によっては、使用できない駆除薬もあるので、病院を受診し、処方してもらう方が安心です。
下痢や嘔吐などの症状が出ている場合には、駆虫薬の投与と同時に、それら症状の治療も行います。
多頭飼育の環境下では、他の猫も感染している可能性が高いため、全ての猫に駆虫薬を投与することになります。
駆除薬の投薬スケジュールは?
生後6週目〜3ヶ月 2週に1回投与
生後3ヶ月〜6ヶ月 月に1回投与
成猫(6ヵ月~)1年に1回以上を目安に定期的に投与
感染してしまった場合は、その都度駆虫薬を投与します。便に成虫が出てきても、体内に幼虫や卵が残っている可能性がありますので、1ヵ月ほどおいて再び投与することも有効です。
猫の回虫症、人にも感染するの?
猫の回虫症は人獣共通感染症といって、人間にも感染する可能性が高い病気です。公園の砂場は野良猫の排便場所になっている可能性が高いため、小さなお子様がいるご家庭では注意が必要です。他にも、鶏レバーを生で食べたことで感染したというケースもあります。
回虫症に人が感染したらどんな症状が出る?
人間の体内においては成長することはありませんが、幼虫移行症の原因となります。幼虫移行症とは、本来人に寄生するタイプではない寄生虫が、幼虫のまま体内器官を移行し様々な症状を引き起こす症例です。
- 内臓移行型
消化器官、呼吸器官によって様々な症状がありますが、発熱、倦怠感、食欲不振、咳、悪寒、好酸球の増加によるアレルギー反応の誘発、筋肉痛、脳に達すればてんかん発作を起こす事もあります。
- 眼移行型
視力の低下、霧視、飛蚊、ブドウ膜炎、硝子体混濁、網膜内腫瘤などの疾患が現れ、ひどい場合には失明する可能性もあります。
現在、眼移行の場合はレーザーでの治療が施されますが、人間の体内に寄生した場合の確実な治療法はまだ確立されていません。
愛猫を回虫症から守る予防法とは?
口から入り、便とともに排出され、また口から侵入して寄生する。回虫は猫の生活のまわりをぐるぐると循環し感染を繰り返します。感染、また再発をしないためにも、確実な完治と予防が大切です。
①健康診断・糞便検査を受けましょう
新しい猫との生活をはじめる場合は、便検査や健康診断などを受けましょう。子猫であればなおのことです。
屋外で生活している猫の半数以上が、回虫症に感染しているといわれています。外猫さんをお迎えする場合も、必ず便検査を受診しましょう。
②屋内飼育で予防
屋外には、公園の砂場や花壇、水たまりなど回虫卵の潜む場所は様々です。愛猫が一度も感染していないのでしたら、完全室内飼育が最善の予防策と言えます。
③多頭飼育の場合
多頭飼育をしている場合は、感染している猫が1匹でもいれば、他の子達にも感染が広がる可能性があります。同居する犬や猫がいる場合には、全頭に駆虫薬を投与しましょう。
④こまめな掃除・洗濯
近年、アルコールや塩素系消毒薬などで除菌する機会も増えましたが、回虫に消毒薬はあまり効果がありません。熱湯消毒が最も有効ですが、トイレや食器などはともかく、家中を熱湯消毒するのは難しい事です。こまめな掃除や洗濯をして、少しでも卵を排除していく事が大切です。
まとめ
猫回虫は人にもうつる寄生虫症で、子猫でもっとも多くみられます。子猫と暮らすことになった場合には、早めに検査を行い、症状が軽い間に治療を始められると良いでしょう。
猫たちの健康のために早めの駆除が必要ですが、人間への感染を防ぐために子供はもちろん、大人も掃除や土いじりの後手洗いを徹底しましょう。
猫との幸せな生活のために、心掛けていきたいですね。