人の心も浮き立つ暖かな春は、恋の季節。陽気に誘われて散歩に出たら、どこからともなく化け物じみた鳴き声が聞こえてきて驚くこともあります。それは、発情期の猫の鳴き声かも知れません。普段耳にしている愛らしい声とは似ても似つかぬその鳴き声は、強く生き残る生存本能の証です。今回は発情期を迎えた猫にどう対処していくのかを詳しくお伝え致します。
猫の恋の季節「発情期」はいつ?
猫の発情期は春から夏が最大のピークです。日照時間が延びる1月から、気温によっては9月頃まで続くこともあります。春は2月から4月、夏は6月から8月が発情期にあたり、年に2、3回発情期を迎えます。
猫の発情期は日照時間に関係している?
猫の発情期は日の長さによって反応するため、日照時間と関係しています。1日の日照時間が14時間と1日の半分以上を超えると反応して発情するといわれていますが、発情するのは女の子のみです。男の子は、女の子の鳴き声やフェロモンに刺激され、誘発する形で発情します。
温暖な気候で食べ物が豊富にある春は子供を育てるのに適した季節です。猫に限らず、ほとんどの野生動物は春に子育てをします。自然環境下にある外で暮らす猫の場合は、季節に合わせて発情期が訪れますが、完全室内飼いの猫は生活環境によって季節問わず発情期が訪れる場合があります。
部屋の照明も発情期に関係するの?
太陽光だけでなく、照明も発情期に関係しています。1日12時間以上照明が点いている環境下にいると、体内時計が勘違いをして季節に関係無く一年中発情しやすくなってしまい、年2、3回の発情期が2倍に増えてしまうことも。外で暮らしている猫でも、24時間運営しているコンビニエンスストアなどの側で暮らす猫も春以外に発情する可能性があります。
猫の「発情期」何歳になるとくるの?
早い子は4ヶ月で発情、逆に1才以上経過してから初めて発情を迎えるなど、ひとまとめにできないほど幅があります。生まれた季節や環境、長毛種、短毛種によってムラがあり、女の子と男の子でも性成熟の時期が異なるのです。特に長毛種は短毛種より性成熟が遅く、1才から1才半頃ようやく迎えることもあります。
男の子の場合
3ヶ月で性成熟し、5~6ヶ月(人でいう中学生くらい)で精巣が発達してマウンティングやマーキングが始まります。9ヶ月から1才(高校生くらい)で交尾ができる体の準備が整い、女の子の鳴き声などの刺激によって発情期を迎えます。精巣が発達する5~6ヶ月を目安に去勢手術を行えば、マーキングによるスプレー行為をほぼ防ぐことが可能です。
女の子の場合
生後半年から10ヶ月で発情期を迎えます。まだあどけない子猫の姿なのに、と驚かれるかも知れませんが、猫の生後半年は人でいうと14才。中学生から高校生の間に異性を意識し始める、と言うと違和感が無いでしょうか。早い子は4ヶ月(人でいうと12、3才)で最初の発情期を迎えてしまい、予定していた避妊手術が間に合わなかったという経験をされた方もいます。発情期中も手術を行うことはできると言われていますが、子宮に血流が集中しているため手術を避ける病院も多いです。
猫に生理はないって本当?
生理というのは、不用になった子宮内膜(赤ちゃん用のベッド)の排出のことです。猫は交尾による刺激によって排卵し、ほぼ100%の確率で妊娠します。赤ちゃん用のベッドを排出する必要がないので、生理はありません。定期的な排卵で事前に妊娠の準備を行う人や犬などの動物にだけ、生理はあります。
「発情期」に猫はどんな行動をする?
普段は聞いたことの無い大声で鳴くなど病気を疑うほどの異常行動が起こり、興奮しやすい状態のため、一緒に遊ぶ時に人が怪我を負うこともあるため注意が必要です。女の子も男の子も相手を探し求めて、ほんの少しの油断で脱走してしまうことも。十分な対策をしましょう。
男の子の場合
女の子のように発情周期は無く、発情した女の子の鳴き声やフェロモンなどの刺激に反応します。
- 落ち着きがなくなる・興奮しやすい
- 大きな声で鳴く
女の子の声に反応して、自分の居場所を知らせるため、アピールします
- 女の子を探して外へ出たがる
室内飼いの子は脱走してしまう危険性が高いです
- 縄張りや女の子を巡ってケンカ
- 尿スプレーをする
去勢手術をしていないと、している子に比べて尿の匂いが非常にきつくなります
多頭飼いをしている場合、他の猫に対して攻撃的になりやすいため、ケンカになってお互いに怪我をしないよう、それぞれの居場所を作ってあげることも大切です。
女の子の場合
一言で発情期と言っても、女の子の場合は細かく期間毎に違いがあります。詳しく見ていきましょう。
- 発情期前
まだ男の子を受け入れない状態ですが、発情期に見られる兆候が始まります。この期間は1~5日程です。
- 家具や人、床などに体をすりつけて自分の匂いをつける
- 普段より活発になるが、食欲が落ちる
- おしっこの回数が増える
- 飼い主にしつこく甘える
などの行動が見られます。
- 発情期
男の子を受け入れる時期で、4~10日程続きます。
- 発情期前の行動がより激しくなる
- 遠吠えのような大きな声で鳴く
- お尻を高く持ち上げる姿勢を取る
- 背中を床につけて、くねくねする
- 男の子のようにスプレー状におしっこをまく
- トイレ以外の場所でおしっこをする(自分の匂いをマーキングして男の子を引き寄せるため)
などの行動が見られます。
- 発情後期
排卵されて、卵胞が退化する時期です。男の子を受け入れません。この状態は約1日です。
- 発情間期
発情休止期とも言います。次の発情期までの休憩期間で、この時期は男の子を受け入れません。発情期に妊娠した場合は次の繁殖期まで発情はありませんが、交尾による排卵が無かった場合は5日から16日程の発情間期を経て、再び発情します。
発情期の周期はどれくらい?
女の子の場合、約16日から36日の周期で発情期が訪れます。男の子には周期が無く、発情期を迎える女の子に刺激を受けて発情します。
猫の「発情期」にはこんな対応を!
発情期は強い子孫を産んで生き残っていくための、生物としての強い生存本能に基づいた行動です。それを止める方法はありません。綿棒などで刺激して排卵を起こさせ、発情をストップさせる方法が知られていますが、絶対にやってはいけない方法です。デリケートな粘膜を傷つけてしまう恐れがあり、猫を余計に苦しめる結果になります。
行動範囲の制限
猫の生活空間を一部屋だけに制限しましょう。後述する対策や管理が楽になります。狭い部屋ではかわいそうと感じるかも知れませんが、猫は縦の移動を好むため縦に長いゲージなどを準備して退屈しない工夫をしてあげましょう。外が見えないよう配慮し、脱走の危険もあるので脱走対策も万全に整えましょう。
防音対策
発情期の猫の鳴き声は、ハッキリ言って騒音です。いつものかわいい鳴き声が多少大きくなる程度と甘く見ない方が良いでしょう。その鳴き声は、どんなに怒ってもおやつで釣っても、止まることは無く、猫の気が済むまで鳴き続けて貰うしかありません。一緒に暮らす家族が眠れなくなるだけでなく、音がもれて近隣住人との間で多大なトラブルを招きます。
外部に音がもれるのは窓からが大半です。窓に防音カーテンを設置し、防音効果のあるシートを貼ると、より高い効果を得られます。猫のゲージ周りを、防音性の高い段ボールでおおうのも防音対策になります。
トイレシートの有効活用法
スプレーの対策として、スプレーしそうな場所にトイレシートを貼り付けるのが有効です。壁や床、家具に匂いが付かないようにしましょう。1度匂いが付いてしまったところを猫はトイレと勘違いしてしまいます。どれほど優秀な消臭スプレーを使っても、猫の鼻はごまかせません。まして、発情期中の尿はより強い匂いを発します。カーテンを防音・防水のものに変え、壁には防水シートを貼り、床にトイレシートを置いて管理するなど、お手入れや管理しやすい方法を取り入れて下さい。
マーキングの手段として、スプレー以外に爪をとぐことも大事な手段です。お気に入りの爪とぎや、いつもより場所を増やしてあげると、ストレス無く過ごすことができるでしょう。
もしかして病気かも?発情期と間違われやすい病気
発情期に見られる、食欲が無い・おしっこが増えるなどの行動は病気のサインとして表れることがあります。特に後述する病気は状態によって命の危険があります。おしっこの症状で放置して良いものは無いので、即病院に連れて行きましょう。その結果が「実は発情期に入っていた」という診断である方が、はるかに安心です。
子宮蓄膿症
子宮内部に細菌が繁殖して膿がたまる病気です。膿が排出されず、たまり続けて子宮が破裂してしまうと、短時間で命の危険があります。子宮内にたまった膿や細菌が腹腔内にばらまかれ、急性腎不全・多臓器不全・腹膜炎・敗血症などを引き起こします。
発情期のように、食欲が無い、尿が増えるなどの症状が見られる他、お腹がふくらむ、熱っぽく元気が無くなる、嘔吐、下痢、膿が出ている、お腹を触ると痛がるなどの症状が見られます。
治療方法として、通常の避妊手術と同じ子宮や卵巣を取る手術を行いますが、避妊手術よりも難しく時間のかかる手術になり、猫の体に負担がかかります。子宮内にたまった細菌や膿を腹腔内にばらまかないよう細心の注意が必要となり、術後も細菌感染が全身に広がっていないか経過観察を行います。病気を予防するという意味でも、避妊手術を事前に行った方が体への負担は少ないです。
血尿
猫には人のような生理はありません。血尿、陰部からの出血は何らかの疾患である可能性が高いため、速やかに病院へ連れて行きましょう。また、発情期に見られる尿を頻繁にする症状は膀胱炎や尿路結石などの病気と似ています。特に何度もトイレに入るのに尿が少ないまたは全く出ていない場合は緊急事態です。病院で「おしっこが出ていない」と伝え、直ぐに診て貰いましょう。
他にも、元気や食欲が無い・嘔吐・血尿というより、血液が出ているなどの症状が表れることもあります。
子猫を産ませないのなら…
子猫を産ませる気が無いのなら、最初の発情期を迎える前に去勢・避妊手術を行いましょう。発情期の度、過分なエネルギーを消耗した上、生殖本能を叶えることができないのは非常に強いストレスとなって違う病気の原因になってしまいます。全身麻酔に不安がある、健康な臓器を取ってしまうことに抵抗があるなど様々な葛藤も分かりますが、猫にとってのベストを考えてあげましょう。
特にアパートやマンションといった隣室と壁を接している賃貸住宅は、去勢避妊手術が必須項目となっていることが多いです。家族として迎えた以上、猫の行動に対する社会的責任が発生することも忘れないで下さい。
まとめ
猫の発情期は生き物として止めることのできない本能的な行動です。しつけることや怒って治すことはできません。子猫を産ませる気が無いのなら、去勢・避妊手術を検討するのが1番ですが悩む方も多いです。手術をためらう気持ちを持つのは、決して間違っていることではありません。迷って、悩んで、ようやく決断している方も多いです。色々な方の体験談を聞き、かかりつけの獣医師とよく相談して、不安な気持ちを解消していきましょう。かわいい家族のために最善の方法を選んであげて下さい。