愛猫が高齢になってくると、いままで以上に病気が心配になってきますよね。飼い主としては病気に掛かる機会を減らし、万が一病気にかかっても愛猫の負担を減らしたいと思うはずです。
そこで、今回は「肥満細胞腫」というシニア猫に多い病気をご紹介いたします。「肥満細胞腫」はどんな病気で、予防策はあるのかなど盛りだくさんの内容です。猫を飼っている方は必見ですよ。
猫の「肥満細胞腫」どんな病気?
猫の肥満細胞腫は、細胞が腫瘍化する病気です。
身体のいたるところにある免疫細胞が腫瘍化し、肥満細胞腫となります。よく太っている「肥満」に関係ある病気と勘違いされますが、実は関係ありません。肥満細胞腫は悪性度の低いものから高いものまである病気です。
肥満細胞腫の大きさにはバラつきがあり、見た目に統一性はありません。急激に大きくなるものや、ほとんどサイズが変わらないものもあり、感触は柔らかかったり硬かったりします。また、発生する部位によって予後がさまざまなので、転移を起こすと治療が困難になり命に関わる恐れがあります。
「肥満細胞腫」の原因は解っている?
肥満細胞腫の原因については、未だ詳しくわかっていません。恐らく、細胞の複製や分裂に関係している「KIT」というタンパク質の遺伝子変異が原因の1つとして考えられています。また、発症傾向は10歳以上の高齢猫です。
現段階でわかっていることは「環境的か遺伝的な危険因子が複雑に絡み合い発症する」「高齢の猫に多い」ですが、まだまだ原因が詳しくわからない部分が多くあります。飼い主の立場からすると、不安が膨らむので少しでも解明して欲しいですね。
今後、肥満細胞腫の原因について解明されるのか注目しつつ、現段階で私たちができる早期発見や早期治療などの対策を行っていきましょう。
「肥満細胞腫」は3つに分類できる
肥満細胞腫は「皮膚型肥満細胞腫」「脾臓型(内蔵型)肥満細胞腫」「消化器型肥満細胞腫」の3つに分類されます。1つずつ詳細を追っていきましょう。
■皮膚型肥満細胞腫
皮膚型肥満細胞腫は4歳以降に発生し、発生年齢の平均は10歳です。頭部や頸部、足などに発症することが多く、その約60%は良性となります。しかし、脾臓に転移することがあるので注意が必要です。
1個だけできている場合は、外科手術をすると経過がよいことが多いのですが、複数個できることもあります。また、何年も前から「できもの」がありサイズに変化がなかったため様子を見ていたが、検査したら肥満細胞腫だったということがあるので自己判断はやめましょう。
皮膚型肥満細胞腫で気を付けるべきなのは、腫瘍のある場所によって発見が遅れることがある、という点です。その理由は、初期の段階ではかゆみや痛みが少ないためです。しかし、できものの症状が進行すると痒みや出血、浮腫や脱毛などを引き起こし、猫にとってとても不快で辛い状態となります。
■脾臓型(内蔵型)肥満細胞腫
脾臓型(内蔵型)肥満細胞腫は、膵臓・肝臓・リンパ節・骨髄が侵される胞腫です。脾臓に腫瘍がある猫の約15%が脾臓型肥満細胞腫といわれています。
また、脾臓型は肝臓・リンパ節・骨髄・肺・腸など他の臓器に転移することがありますが、あまり症状が出てこないので早期発見が難しい腫瘍となります。膵臓は左肋骨の下に位置する臓器で、しこりではなく膵臓全体が腫れるケースが多く見受けられます。
悪化してくると食欲不振や体重減少、嘔吐などの症状があり、皮膚型肥満細胞腫以上に深刻な状態となります。発見時には高確率で転移を起こしているので、この症状に当てはまる場合は、早急に動物病院へ連れていきましょう。
■消化器型肥満細胞腫
消化器型肥満細胞腫は、小腸か大腸にできる胞腫です。
消化器にできる胞腫は悪性度が高く、予後が悪いといわれています。さまざまな消化器症状を引き起こし、重症化すると腹水がたまる場合もあります。また、無症状の猫でも亡くなった後の解剖で、偶然消化器型肥満細胞腫が見つかることもあります。
どのような症状が出たら「肥満細胞腫」を疑う?
肥満細胞腫を疑う症状は、できもの・食欲不振・嘔吐・腹水・下痢・虚脱などです。中には症状が併発している場合があります。
初期症状である「できもの」のうちに、早期発見と早期治療が望ましいです。しかし、できものといっても腫瘍や瘡蓋のようだったり、白いイボのようだったりと形がさまざまなので注意をしてください。また、刺激すると有害な物質を放つ危険性があるので、できものを見つけたら強く触るなど、刺激を与えないようにしましょう。
初期症状のわかりにくい脾臓型(内蔵型)肥満細胞腫と、消化器型肥満細胞腫は日頃から愛猫の様子や体のチェックが大切になります。
掛かりやすい猫の種類ってあるの?
肥満細胞腫に掛かりやすいといわれる猫種は、シャム・バーミーズ・メインクーン・ラグドール・ロシアンブルーです。これらの猫種は皮膚型肥満細胞腫を発症しやすいといわれています。皮膚型は約60%が良性ですが、約20~30%は悪性です。
脾臓型や消化器型については特に好発品種がありませんが、10歳を超える高齢猫は掛かりやすくなります。どの品種の猫を飼われていても日頃から注意が必要ですが、上記の品種の猫や高齢猫を飼われている方は特に注意しましょう。
「肥満細胞腫」の診断方法は?
肥満細胞腫の診断方法は、針吸引検査(FNA)となります。
針吸引検査(FNA)とは注射器で細胞のサンプルを採取し、顕微鏡で観察して診断する方法です。肥満細胞腫の細胞は特殊な形をしているので、発見しやすく診断にあまり時間はかかりません。病理検査に送ることで良性か悪性か、悪性だとしてもどの程度のものなのかがわかります。
「肥満細胞腫」の治療方法は?
もし愛猫が肥満細胞腫になってしまった場合、治療方法が気になりますよね。そこで続いては、3種類の肥満細胞腫ごとに治療方法をご紹介いたします。もしものときのために、事前に知っておきましょう。
■皮膚型肥満細胞腫の場合
皮膚型肥満細胞腫の場合は、基本的に外科手術となります。
転移がなく軽傷の場合、ほとんどが半日入院で帰宅できます。しかし、転移やなんらかの理由で手術できない場合は、抗がん剤での治療となります。
外科手術で病変が取り切れていれば、予後良好なケースが多いですが、再発や転移する可能性があることを知っておきましょう。
■脾臓型(内蔵型)肥満細胞腫の場合
脾臓型(内蔵型)肥満細胞腫の治療法は、摘出手術となります。脾臓を摘出することで、全身に肥満細胞腫が広がっていたとしても延命が期待できます。
脾臓を摘出するリスクや予後が心配に思われますが、他の臓器が代わって対応してくれるので、基本的には大きな支障はありません。
■消化器型肥満細胞腫の場合
消化器型肥満細胞腫の治療法ですが、外科手術が不適応になることが多々あります。その理由は、診断時点ですでに広範囲に病変が広がっているケースがほとんどだからです。
病変が消化管の一部だけであれば外科手術が可能ですが、一般的に術後の生存期間は3ヶ月以内といわれています。しかし、近年では化学療法により術後比較的長い生存である、518日間が認められたという報告がありました。
■手術以外の治療方法ってあるの?
手術以外の治療方法ですが、肥満細胞腫の第一選択は外科手術です。しかし、切除できない・転移しているなどといった場合は、化学療法や投薬が選択されます。
化学療法は病理組織学的所見および病気分類に応じて選択されますが、化学療法の効果は未知な部分や、結果にばらつきがあるので今後の研究が注目されています。
投薬はがん化した細胞にだけ働く、分子標的薬の使用です。消化管の潰瘍を防ぐため、肥満細胞から分泌されるヒスタミンに対抗する薬となります。
「肥満細胞腫」にしないための予防ってある?
肥満細胞腫の予防は残念ながら今の医学では存在しません。しかしそのような中でも、重症化させない方法として、早期発見と早期治療を目指すことです。
皮膚型は日々愛猫の身体を触り、異変がないか確認をしてください。多発している場合は、毛を刈ると身体のあちこちに見つかることがあるのでよく観察しましょう。できものを見つけたら、すぐに動物病院に連れて行くことをおすすめします。また、内蔵型は症状がわかりにくいため、10歳以降は定期的に健康診断でレントゲンと超音波検査をするとよいです。
飼い主にできることは日頃から愛猫の体をこまめにチェックし、定期的な検診を心がけましょう。
まとめ
今回は、「肥満細胞腫」というシニア猫に多い病気についてご紹介してきましたが、いかがでしたか?
肥満細胞腫はまだ知られていない部分が多い病気で、具体的な予防策がありません。また、場合によっては手術ができないこともあります。さらに、病状によっては命の危険があるので、早期発見・早期治療が重要です。肥満細胞腫の危険から愛猫を守り、毎日を健やかに過ごしていきましょう。