猫の貧血の症状、原因、治療法、予防対策を徹底解説

猫の健康 重篤化すると危険な猫の「貧血」治療方法は?予防は可能?

執筆/佐藤 華

猫の貧血は、血液量が減り体調不良に陥る状態です。元気がない、口の中が白くなっているなどが見られますが、一言で貧血と言っても、ケガによるものと病気によるものがあり、診断方法や治療法はその原因に合わせたものが選択されます。

貧血は放っておくとどんどん悪化し治療が長期化したり、回復が難しくなるため、早めに異変に気づき受診することが大切です。今回は猫の貧血についてまとめています。

猫の「貧血」どんな病気なの?

貧血は血液中の赤血球の数が少なくなったり、赤血球の主要成分であるヘモグロビンの濃度が薄くなる状態です。正常であれば赤血球は生産と破壊を毎日繰り返し赤血球量を一定に保ちますが、赤血球の生産と破壊のバランスが崩れると赤血球量を保てなくなり、赤血球が減少します。

赤血球は体内の様々な臓器に酸素を届ける働きをしており、人も猫も生命維持に欠かせない成分です。赤血球が減少すると、体内へ酸素を届けられなくなるため体調不良に陥ります。何らかの病気症状として貧血になる場合が多く、重度の貧血の場合には命に関わるため、愛猫が貧血を起こしていないかチェックすることが大切です。

何が「貧血」の原因?

貧血は大きく2つに分類され、その分類で原因が違います。

・再生性貧血

赤血球自体の生産はできますが、何らかの原因により生産と破壊のバランスが崩れるため貧血になります。赤血球を作ってはいますが、消費されすぎて生産が追いついていない状態です。

再生性貧血は外傷での出血や手術での多量の出血が原因の「失血性貧血」と、赤血球の生産はされるものの赤血球の寿命前に破壊される「溶血性貧血」に分かれます。

・非再生性貧血

赤血球の生産段階で異常が起こり赤血球の生産ができず消費される一方なので、赤血球量が減少していく貧血です。赤血球の生産自体に問題があるため、消費ばかり進み結果として赤血球数がどんどん減っていく状態です。

非再生性貧血の原因は病気です。猫の白血病や免疫不全、慢性腎不全などの病気が原因になる事が多く、病気症状の一つとして貧血が現れます。

・非再生性貧血

 非再生性貧血は新しい赤血球が作れず消費される一方の状態です。白血病、免疫不全などの骨髄機能異常、腎臓トラブルなどが原因で、さらに3つに分類されます。

・骨髄機能の異常、低下

白血病ウイルス、免疫不全ウイルスが原因で骨髄機能に異常が起こり、骨髄で赤血球を生産できなくなり貧血が起こります。白血病や免疫不全は骨髄の病気ですが、リンパ腫も骨髄転移が起こりやすく、骨髄機能低下による貧血になります。骨髄は血液成分の生産器官で、骨髄の機能が低下すると、赤血球だけではなく白血球や血小板といった血液成分の生産も止まり、血液成分の減少が起こります。

・腎機能の異常、低下

非再生性貧血の中でも特に多いのが、腎機能低下による貧血です。猫は腎臓トラブルを抱えやすい動物です。腎臓から分泌されるエリスロポエチンというホルモンは、骨髄細胞が赤血球になるために必要なホルモンです。腎臓病になると、エリスロポエチンの生産能力が低下し赤血球数減少に繋がります。慢性腎不全などの慢性的な腎臓病や進行性の腎臓病では、エリスロポエチンの量が低下し、貧血が起きます。腎臓の異常が原因であることから「腎性貧血」と呼ばれています。

・鉄欠乏、栄養不足

赤血球の成分であるヘモグロビンが正常に機能するためには、鉄分やタンパク質、ビタミンなど多くの栄養がバランスよく摂取できていることが必要です。何らかの疾患や手作りの食事を与えている場合、または野良猫などの栄養不良状態の猫は鉄分やビタミン類が不足しがちになり、「鉄欠乏性貧血」を起こしやすくなります。

・再生性貧血(溶血性貧血)

溶血性貧血は、血液中の赤血球が破壊され赤血球数が減少することで起こります。溶血性貧血が起こる原因は、中毒、寄生虫、自己免疫機能異常の3つがあります。

・中毒

たまねぎやにら、にんにく、ネギは猫に与えてはいけない食材で有名です。これらの食材には「アリルプロピルジスルファイド」という成分が含まれており、その成分が赤血球を破壊するため貧血が起こります。少量の摂取でも中毒を起こし貧血になります。

・寄生虫

寄生虫と聞くと、体内にいる虫をイメージしがちですが、体表につくマダニやノミも寄生虫です。特にノミは吸血性の寄生虫で、外にいる猫の体表には確実にノミが付いています。ノミはとても強い繁殖力を持っているため放っておくと大量に寄生されてしまい、大量のノミが吸血することで貧血を起こします。

・自己免疫機能異常

自己免疫機能異常が起こると、自分の赤血球を異物とみなし攻撃し破壊します。赤血球が生産されてもどんどん破壊されるため貧血になります。この場合の貧血は「免疫介在性溶血性貧血」と呼ばれます。

・再生性貧血(失血性貧血)

ケガなどの外傷や手術の際に起こる出血、腫瘍が内部で破裂し起こる出血で多量の血液が失われ貧血になることを「失血性貧血」と言います。

外傷や手術は血管に傷がつくことで出血しますが、腫瘍や潰瘍からの出血は見た目ではわかりません。赤血球の生産と破壊のバランスは保たれるため、適切な処置で回復します。

「貧血」の症状とは?

貧血全般に見られるのは、元気がない、動きが鈍い、食欲がない、疲れやすい、歯ぐきや舌、口の中が白っぽくなる、呼吸が速くなるといった症状です。これらの症状に加え、貧血の分類ごとに現れる症状もあります。

・失血性貧血

体表面の出血、吐血、喀血が見られます。内蔵系からの出血の場合、血尿や黒色便が見られます。

・溶血性貧血

白目部分や歯ぐき、皮膚の色が黄色くなる黄疸が見られます。症状が進むと血尿がでる場合もあります。軽度の貧血だとはっきりとした症状がでないことが多く、症状が出たときには悪化しているというケースもあります。貧血は進行するにつれ、舌や口の中が白っぽくなり、重度の貧血になると呼吸困難や臓器不全といった症状が見られます。

どうやって診断するの?

貧血の診断は、まず血液検査でヘマトクリット値(PCV)、赤血球数(RBC)、ヘモグロビン値(Hb)を調べます。特に注目するのはPCV値で、その数値により重症度を判断します。判断基準となる数値は以下のとおりです。

  • 正常 25%以上
  • 軽度 20〜24%
  • 中度 15〜19%
  • 重度 14%未満

貧血の原因を調べるために、問診、触診、更に詳しい血液検査、レントゲン検査、超音波検査などをします。必要に応じて尿検査や便検査もします。ウイルス感染が疑われる場合には、ウイルス検査します。これらの検査結果をもとに、貧血の原因やどんな貧血か診断されます。

どのような治療法があるの?

貧血の原因がわかったら、その原因に応じて治療します。

・失血性貧血

止血剤を使い止血します。多量出血の場合は、輸液や輸血で血液量を戻します。

・溶血性貧血

寄生虫が原因であれば、寄生虫の駆除をし、中毒が原因の場合は、抗酸化剤を投与します。重度の貧血の場合は輸血します。

・非再生性貧血

腎臓疾患が原因の場合は、エリスロポエチン剤を投与します。一度落ちた腎機能は回復することはなく、継続的な治療が必要です。免疫異常の場合は、インターフェロン治療します。骨髄機能が低下しているため回復には時間かかかります。

・鉄欠乏性貧血、栄養不良

鉄剤やビタミン剤を投与します。状態により栄養豊富な食事に切り替えることもあります。非再生性貧血の場合は重度の貧血に陥りやすく、入院や輸血が必要なこともあります。

猫の「貧血」予防は出来る?

貧血予防で効果的なのは以下の3点です。

  • 完全室内飼い
  • 食材の適切な保存と管理
  • 定期的な健康診断

完全室内飼いのすることで、交通事故でのケガや寄生虫付着を防げます。また定期的な寄生虫駆除は寄生虫による貧血予防に効果的です。

たまねぎやねぎ、にんにく、ニラは猫が触れない場所に保管しておくと中毒が原因となる貧血を予防できます。扉がついた場所や冷蔵庫で保存しましょう。

病気による貧血は、原因になる病気予防が貧血予防になります。病気にすぐに気づけるよう、定期的な健康診断を受けることで愛猫の健康維持に努めましょう。

貧血は早期発見早期治療で改善していくため、愛猫の体調がいつもと違ったり、なんとなく元気がない時に、すぐに受診し貧血かどうか調べてもらいましょう。

まとめ

猫の貧血はどんな猫でもかかる恐れがあります。原因は様々ですが、元気がない、運動を嫌うようになった、食欲が落ちているなど、いつもと違う様子の時にはすぐに受診しましょう。病気由来の貧血の場合、貧血の治療とともに病気への治療もするため、治療期間は長くなりその分愛猫に負担をかけます。早期発見早期治療できるよう、愛猫の毎日の様子をよく見てあげましょう。

執筆者
会社員を経て、念願叶いライターとしてデビューしました。 猫4匹、犬1匹、人間ふたりの大家族なので、笑いと事件が絶えない毎日です。 読者の皆さまのお役に立てるような記事を執筆出来るよう、日々精進してまいります!