「猫は液体」と呼ばれるほど関節や筋肉が柔らかい生き物ですが、猫も関節炎になるのはご存じでしょうか?シニア猫だけではなく、遺伝疾患が原因で関節炎を引き起こす可能性もあります。そんな、意外と身近な猫の関節炎について解説していきます。
関節の仕組みについて
関節は関節包と靭帯に包まれ、骨と骨のつなぎ目の役目を担っています。関節包の内側は滑膜と呼ばれる薄い膜状の組織と軟骨で守られており、滑膜から分泌された滑液が関節包の中で潤滑油の役割を果たし、スムーズに関節を動かしています。皆さんご存じのように、関節は全身にあり、関節を動かすことで歩く、座る、口を開けるなど様々な動作を行っています。関節が損傷や負荷を受けると正常に動かなくなり、関節炎がおこります。四足歩行の猫では人間と違い、前脚の肘関節や肩関節、手根関節(人間の手首に当たる部位)にも関節炎の症状がみられることがあります。猫は関節炎になることが多いのですが、自ら痛みを訴えてくれるわけではないので、なかなか発見しにくいのが特徴です。
猫は「関節炎」になることが多い?原因は?
猫の関節炎の中でも多いのは、変形性関節症です。関節の軟骨とその周囲の組織が変形し、関節機能に異常が生じてしまうものです。変形性関節症は原因によって二種類に分類されます。
加齢とともに起きる一次性変形性関節症
一次性変形関節症は、原発性または突発性変形関節症とも呼ばれ、シニア猫に多く見られます。また、肥満気味の猫も、一次性変形性関節炎にかかることが多いようです。
はっきりとした原因は解っていませんが、加齢にって間接への負担が蓄積し、軟骨が摩耗や変形を起こしてしまうと考えられています。肥満気味の猫の場合には、間接への負担が大きくなり発症すると見られています。軟骨が損傷するとその周囲の滑膜が炎症を起こし、滑液に含まれる軟骨を保護する役割を持つヒアルロン酸の分泌が減少、軟骨代謝が悪化します。滑液は軟骨を保護する役割を果たせなくなり、本来のクッションの役割を果たさなくなるという悪循環が生まれてしまいます。
一次性変形関節症は猫の品種に関係なく、高齢の猫が発症しやすいといわれています。
遺伝も関係する二次性変形性関節症
二次性変形関節症は、靭帯断裂、半月板損傷、脱臼といった外傷や関節の形成異常などで起こります。また、遺伝的な要因として、デボン・レックスの膝蓋骨脱臼やスコティッシュ・フォールドの骨軟骨異形成症、シャム猫の股関節異型などがあげられます。これらは成長する過程で関節の構造に異常がおき、二次性変形性関節炎を発症します。
猫の「関節炎」どんな症状が出るの?
猫の関節症はどのような症状がみられるのか解説していきます。アメリカでの調査で、6か月齢~20歳齢の猫を100頭調査し、そのうちのおよそ90%が関節炎を発症しているという報告があるほどです。それでも、関節炎と診断される猫は少なく、関節炎であると気が付かれずに生活しています。
意外に気づきにくい、猫の関節炎の症状は?
猫の関節炎はほとんどが加齢によるものです。シニア期に入った猫は、若いころよりも動くのが遅くなったり、寝ている時間が増えたりするものだと誰もが想像するでしょう。まさに、そのような状態が関節炎の症状とぴったりと当てはまるため、気付かないうちに進行してしまうのです。関節炎の主な症状は以下の通りです。
- 遊ばなくなった
- 寝ていることが多くなった
- 階段の上り下りを嫌がる
- トイレがスムーズにできない
- 身体を触られるのを嫌がる
- 毛づくろいの回数がへった、毛並みが悪くなった
- 爪とぎの回数が減少した
- 動きがぎこちない
- 攻撃的になる
このように、関節炎の症状は加齢によるものと片付けてしまいがちなものばかりです。そういった飼い主の先入観によって猫の関節炎の発見を遅らせることに繋がってしまいます。
猫の「関節炎」どうやって診断する?
猫の関節炎の診断では、飼い主から家での様子を確認、その後触診をして関節の動きをチェック、そしてレントゲン撮影を行います。
初期は明らかな症状がみられないことが多いですが、進行すると軟骨に接している骨の硬化、軟骨が肥大化し次第に固く、棘のようになる骨棘形成、重症化すると炎症で関節液が増え、関節包が腫れるといった症状がみられます。症状が進行するほど痛みが持続的になり、排泄に異常をきたすほど日常生活が困難になっていくので、早めにかかりつけの動物病院を受診しましょう。
もしも愛猫が「関節炎」になったら?
変形関節症は、猫が最も罹患しやすい関節炎で、関節そのものが変形してしまうものです。変形した関節は完治するのが困難なので、長期的に向き合っていく必要があります。そのため、これ以上愛猫の関節炎が悪化しないような環境づくりをしていくことが大切です。
猫の「関節炎」の治療法はある?
基本的には、猫の生活を維持するために、痛み止めの投薬といった内科治療を行っていきます。投薬治療では非ステロイド性抗炎症薬が使用されています。最近では猫にも安全に使用でき、腎臓や肝臓と言った消化器系に対する副反応が少ないものが開発され、治療の幅が広がってきています。非ステロイド系の薬を服用する場合には、獣医師からの指示通りの用法、用法を守りましょう。安全に使用できるといっても、長期間の投与で消化器や血小板に影響が出てしまうこともあります。そのため、定期的な検診を怠らないようにしてください。
非ステロイド抗炎症剤の投薬は、痛みを和らげ関節炎の進行を防ぐものなので根本的な原因解決にはなりません。靭帯断裂や半月板の損傷などの重い外傷の場合は外科手術が必要になる場合もあります。
肥満により関節に負担をかけてしまう場合は、体重管理を行います。また、関節の痛みの影響で体を動かさなくなり、肥満になってしまうこともあります。栄養バランスの良い、低カロリーな食事を与え、体の負担にならない適度な運動をさせてあげましょう。運動は、肥満抑制だけでなく関節を支える筋肉を鍛えられ、関節の負担を減らすことにも繋がるため重要なものですが、痛みが強い場合は無理をさせず休ませてあげましょう。
また、軟骨の保護をするためにサプリメントの処方やレーザー治療や鍼灸といった理学療法を行う病院もあります。
猫の「関節炎」を予防はできる?
関節炎の予防法としては、日頃から猫の体重管理を行うこと、適度な運動をさせることです。適度な運動をさせることで、体重管理と関節を支える筋肉を鍛えることができ、一石二鳥です。また、部屋の床材にも気を配りましょう。フローリングなど脚を滑らせやすいものは、関節に負担をかけてしまいます。ペット用の床材などを敷いてあげる、フローリングに滑り止めのワックスをかけてあげるなど、猫が脚を滑りにくくする環境づくりをしましょう。また、爪が伸びすぎることで、脚を滑らせる原因となるため、定期的に爪の長さをチェックして切ってあげましょう。
スコティッシュ・フォールドなどの遺伝的に関節炎になりやすい品種は、日頃から動きに異常がないか良く観察し、いつもと違う様子が見られたら、早めに動物病院を受診しましょう。
まとめ
猫の関節症は、原因によって数年かけてゆっくりと進行する場合と急激に進行する場合があります。加齢による場合は発症に気が付きにくく、見逃してしまうことも多いです。大事な家族が痛みで苦しむ前に、些細な異変でも早めに動物病院を受診しましょう。シニアの猫のほとんどが関節炎を発症するので、定期的に健康診断を受けるのも良いでしょう。