猫の多発性嚢胞腎の症状、治療法を徹底解説

猫の健康 腎機能が低下してしまう猫の「多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)」治療法は?予防はできる? 

執筆/かじめい

猫の「多発性嚢胞腎」は、腎臓の機能が少しずつ低下していってしまう病気です。実はこの病気、一度発症してしまうと元の健康な状態の腎臓に戻すことが不可能なうえ、残念ながら予防することも非常に困難であると言われています。では、万が一大切な愛猫が発症してしまった場合、私達家族には何が出来るのでしょうか。猫の多発性嚢胞腎について、症状や発生要因、そして治療法などについてしっかり理解を深めておきましょう。

猫の「多発性嚢胞腎」はどんな病気?

猫の多発性嚢胞腎はどんな病気?

 多発性嚢胞腎は腎機能が徐々に低下していく病気です。腎臓は、血液中の老廃物をろ過し、尿として排泄するための「ネフロン」と呼ばれるろ過装置を沢山持っています。ネフロンは、血液をろ過して綺麗な状態を保つ、という非常に重要な役割を担っており、左右の腎臓合わせて約40万個存在しているといわれています。腎臓自体の構造は、たくさんのネフロンが詰まった塊のようなものです。

猫が多発性嚢胞腎になると、両側の腎臓に液体が入った袋上の嚢胞(のうほう)ができます。嚢胞は徐々に大きくなり、数も増えていき、最後には腎臓自体が大きくなってしまいます。つまり、多発性嚢胞腎は腎臓内の細胞や組織が嚢胞に置き換わってしまい、腎臓の機能が低下してしまう病気です。最終的には腎臓としての機能を一切無くす腎不全によって、命を落としてしまうことになるのです。

猫の「多発性嚢胞腎」の症状は?

猫の「多発性嚢胞腎」の症状は?

腎臓に嚢胞と呼ばれる袋状のものがどんどん形成されていってしまう多発性嚢胞腎ですが、この嚢胞が大きくなるまで、目に見えて分かりやすい症状が出てくることはほとんどありません。嚢胞の拡大によってネフロンが減少し、次第に「慢性腎不全」を発症した時と似たような症状が現れます。具体的には、食欲の低下、体重減少、飲水量の増加、尿量の増加、嘔吐、元気がなくなるなどが挙げられます。

では、多発性嚢胞腎と慢性腎不全の見分け方はあるのでしょうか。

多発性嚢胞腎と腎不全を見分ける方法として、画像診断を主に用います。X線写真で腎臓の拡大の有無を、エコー検査で腎臓内部の嚢胞の有無を確認します。慢性腎不全になると、進行が進むと腎臓が徐々に萎縮してしまう傾向にあるのに対し、多発性嚢胞腎は腎臓のサイズが拡大します。多発性嚢胞腎の症状が進んでいると、触診や目視だけで確認できるほど、腎臓の拡大によって腹部が膨らんでしまうこともあるようです。また、多発性嚢胞腎は2歳頃の若い猫でも発症してしまう傾向がありますが、慢性腎不全は主に高齢の猫に発症が見られます。

腎臓の病気の進行は比較的ゆっくりではありますが、終期から末期になるとこれまで見られていた症状は悪化の一途をたどり、腎臓が機能を失うことにより尿毒症に至ります。そして、最終的には命を落としてしまうのです。

猫の「多発性嚢胞腎」の原因とは?

猫の「多発性嚢胞腎」の原因とは?

猫の多発性嚢胞腎は遺伝性の病気で、原因は「常染色体優性遺伝(※)」です。親猫どちらかが腎臓のたんぱく質を作る遺伝子に問題が生じていた場合、生まれてきた子猫は多発性嚢胞腎を遺伝しやすく、確率は50%強と言われています。

※常染色体優性遺伝 … 両親から受け継いだ遺伝子のうち、変化を持つ遺伝子を1つ受け継いだため発症する遺伝の仕方を郵政遺伝と呼びます。

遺伝性の病気

多発性嚢胞腎に罹患しやすい猫の種類があることが知られており、これを「品種特異性」といいます。あなたの猫がこの品種に該当する場合、特に注意を払ってあげることが必要です。

  • ペルシャ
  • アメリカン・ショートヘア
  • ブリティッシュ・ショートヘア
  • エキゾチック・ショートヘア
  • ヒマラヤン
  • マンチカン
  • スコティッシュ・フォールド
  • ラグドール

もちろん、ここに挙げたすべての猫種が多発性嚢胞腎になるわけではありませんし、他の品種の猫でも発症してしまう可能性はゼロではありません。猫はもともと腎臓を患いやすい動物なので、油断は大敵といえます。

猫の「多発性嚢胞腎」、治療法はあるの?

猫の「多発性嚢胞腎」、治療法はあるの?

 腎臓は一度機能を失ってしまうと元に戻すことができません。つまり、多発性嚢胞腎を完治させる治療法は、残念ながら存在しないため、対処療法がメインになります

そのため、日頃の健康観察による早期発見と、万が一発症してしまった場合の早期治療が非常に重要になります。多発性嚢胞腎は完治が難しい病気であることは事実ですが、適切な治療を行うことで進行を遅らせることは可能ですし、何より猫の苦しみを軽減してあげることにつながります。

多発性嚢胞腎の具体的な治療法ですが、慢性腎不全の治療と同様の方法をとります。具体的には、療法食でタンパク質やリンを制限、脱水改善や尿毒症の緩和のために輸液を皮下点滴で体内に取り入れる、リンの吸着や腎臓の炎症、繊維化を抑制するための薬の投与、血流を良くするための血管拡張薬の使用など、体調や症状にあわせて継続的に行うことが必要です。嚢胞に細菌感染が起きた場合には、抗生物質を用いることもあります。

また、嚢胞の内部に多量の液体が溜ることにより腎臓のサイズが拡大していることがあります。これが原因で、他の臓器が圧迫され支障を起こすと判断された場合、嚢胞内の液体を吸引して排出する処置もありますが、感染リスクが高く、猫にストレスをかけてしまう処置です。もしこの処置を行わなくてはいけない状況になったら、獣医師の説明をしっかりと聞き、充分に相談して決めてください。十

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猫を「多発性嚢胞腎」から守るための予防法はある?

猫を「多発性嚢胞腎」から守るための予防法はある?

遺伝的な要因を持つ多発性嚢胞腎は、残念ながら完全に予防する方法はありませんが、健康診断を定期的に受けることで早期発見が可能になり、早期治療に繋がります。1歳未満の子猫のうちから腹部エコーや尿検査などを行っておくとよいかもしれません。また、遺伝子検査(血液検査)で多発性嚢胞腎の発症素因があるか確認することも出来るようです。気になる方は、一度かかりつけの動物病院で相談してみましょう。

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まとめ

多発性嚢胞腎は、一度発症してしまうと根治は難しい進行性の恐ろしい病気です。発症するリスクが高い品種、あるいは発症したことがある猫と血縁関係が強い場合は、若いうちから腎臓の様子を定期的に診てもらうことをお勧めします。

執筆者
二人の愛娘と一匹の暴れん坊ニャンコに日々振り回されているワーキングマザーです。 とにかく猫が好きで、愛猫家歴20年以上になります。 小学生の頃、実家の庭に迷い込んだ野良の子猫との出会いから始まり、一人暮らしの時、そして結婚し現在にいたるまで、計6匹の個性豊かな猫達と生活を共にしてきました。  私と愛猫の体験談なども踏まえながら、読んでくださったあなたにホッとしてもらえたりクスッと笑ってもらえたり…とにかく身近に感じていただけるような記事をお届けできますよう、日々勉強しております!