猫の「免疫介在性溶血性貧血(IMHA)」は、猫の体内で何らかの原因で免疫異常がおこり、赤血球を破壊するために貧血になる病気です。発症するのは0.1%ほどといわれており、原因など解っていないことが多くあります。ただ、急激に貧血が進み、重篤化すると死に至る危険な高い病気です。「免疫介在性溶血性貧血(IMHA)」とはどのような病気なのか、ここでは詳しく説明していきます。
猫自身の免疫が赤血球を壊す病気
免疫とは、体内に入ってきた細菌やウイルスなどの異物を認識し、攻撃して排除する生体防御システムです。ところが、この免疫機能が異常な働きをすることにより体の中の赤血球を異物と認識し、赤血球を破壊してしまいます。赤血球は体内の隅々に酸素を運ぶ重要な役割を担っているため、赤血球が破壊されることで体内の酸素が不足し貧血になってしまうのが「免疫介在性溶血性貧血(IMHA)」です。
「免疫介在性溶血性貧血」の症状は?
重度貧血状態になるので、動かなくなったり食欲がなくなるなどの症状に加えて、呼吸が早くなったり、粘膜が白くなったり黄疸がみられることがあります。
元気がなくなる、食欲が低下する
赤血球は酸素を組織や細胞に届ける役割をしています。赤血球が破壊され貧血がおこると、体の様々な細胞に酸素が届けられなくなり、元気低下、食欲不振、運動量の低下、発熱、疲れやすくなるなどの症状が現れます。
呼吸が早い、粘膜が白っぽくなる
貧血が進むと血液中の酸素量がさらに低くなります。そのため、酸素不足により粘膜の色が白くなったり、酸素を体に取り入れようとするため呼吸が早くなったりします。他にも、動きが鈍くなり、ふらつきが現れ、倒れてしまうこともあります。
黄疸が見られる
赤血球に含まれる赤色色素タンパク質の「ヘモグロビン」は、酸素と結合し、全身へ酸素を運搬する運送屋さんのような役割を担っています。赤血球が破壊されると、ヘモグロビンが代謝され、黄疸色素の「ビリルビン」が過剰に作られてしまいます。この血液中のビリルビン濃度が過剰に増えた状態が黄疸です。黄疸になると口腔内や目の粘膜が黄色くなる、尿の色が濃くなるという症状が現れます。
猫の「免疫介在性溶血性貧血」、原因は何?
免疫介在性溶血性貧血には、特に原因がなく突然の免疫異常や遺伝的素因により発生する「原発性」と、他の病気が引き金となって発症する「二次性」に分けられます。
原発性は若年期からプレシニア期までの猫が発症することが多いと言われています。
二次性の発症原因としては、リンパ腫、白血病、組織球肉腫などの血液の腫瘍、猫白血病ウイルス(FeLV)や猫伝染性腹膜炎などの感染症、胆管炎や膵炎などの炎症性疾患に起因するものなどがあります。
猫の「免疫介在性溶血性貧血」治療法はあるの?
「免疫介在性溶血性貧血」と診断された場合には、ステロイドを使い免疫を抑制し、赤血球の破壊を食い止める治療を行います。
どんな種類の薬を投与されるの?
ステロイドを用いた治療が行われます。免疫抑制のためにはステロイドの使用量が多くなるため、副作用がでていないか血液検査でモニタリングしながら行います。
貧血状態が改善されれば減薬を行っていきますが、ステロイドの反応があまり良くない場合や、貧血の症状が強く出ている場合には、免疫抑制剤を併用することもあり、治療は数カ月間から半年という中長期に渡ります。二次性の免疫介在性溶血性貧血であった場合には、免疫機能の異常を引き起こした疾患の治療も行います。
免疫抑制剤を用いても良い結果が得られない場合には、赤血球を破壊する中心的な場所である脾臓を摘出することもあります。
輸血は必要?
貧血状態が重篤で、苦しそうな様子が見られる場合には、輸血を行うこともあります。しかし輸血は、あくまでも貧血による症状の改善と、免疫を抑制し赤血球が再生されるまでの時間を稼ぐという意図です。輸血には供血動物が必要で、供血動物の血液と相性が良くないと輸血は行えません。また、輸血により副反応がでてしまうこともあるので、輸血が必要かどうかは慎重に判断しなくてはいけません。
呼吸が苦しそうな場合には、酸素室に入院する場合もあります。
再発の可能性はある?
長期にわたりステロイドと必要であれば免疫抑制剤の併用で治療を行い、改善が見られれば減薬をしていきますが、寛解しても再発する可能性はあります。再発した場合には、免疫異常を起こした原因は何か、徹底的な再検査を行います。その場合、以前の治療よりも、免疫抑制剤を併用する必要が高くなります。
猫の「免疫介在性溶血性貧血」どうやって診断するの?
免疫介在性溶血性貧血を診断する検査は現時点ではなく、様々な疾患を除外していきます。そのため、血液検査で貧血状態であること、赤血球が破壊されていることが解ると、貧血になる他の原因(出血や中毒症など)を除外した上で、赤血球が壊れる溶血性の貧血であることを疑います。溶血性の貧血の原因である「感染病原体」「赤血球膜の変性」「血清成分の変化」「血管敵の異常」などの免疫以外の原因を除外していき、「免疫介在性溶血性貧血」であると診断します。診断に至るまでには、以下のような検査を行います。
- 血液検査
血液塗抹で赤血球が破壊されていないか確認します。貧血状態の確認や、黄疸がでていないかも確認します。
- 尿検査
溶血、黄疸の確認をします。
- 便検査
血便などの症状が見られるときには、消化管からの出血がないかを調べるために便検査を行います。
- レントゲン検査・超音波検査
脾臓・肝臓に腫瘍がないか、血液系の悪性腫瘍がないかを調べます。
- PCR検査
ヘモプラズマ感染症を除外するために行います。
- 猫免疫不全ウイルス(FIV)猫白血病ウイルス(FeLV)の検査
二次性免疫介在性貧血の原因となる感染症の有無を調べます。
愛猫を「免疫介在性溶血性貧血」から守る予防法はあるの?
免疫異常が起きる仕組みが解っていたいため、具体的な予防方法はなく、早期発見・早期治療がカギとなります。足元がふらついている、突然食欲がなくなった、遊びに誘っても乗ってこないなど、いつもと違う様子が見られたら、早めに動物病院を受診するようにしましょう。
また、二次性の免疫介在性溶血性貧血では猫白血病ウイルスの感染が原因となることもあるため、ワクチン接種と完全室内飼育を徹底することが予防のひとつといえます。
まとめ
免疫介在性溶血性貧血には予防法がありません。定期的に猫を検診に連れて行き、血液検査の数値や項目を確認し、日頃から飼い主さんが猫の目や口腔内を含めて健康状態を注意してみていくことが大切です。