腎臓病(腎不全)は猫にとって宿命とも言うべき病気の1つです。多くの猫が腎臓病(腎不全)を患って亡くなっています。特に慢性腎臓病(慢性腎不全)を患うと生涯に渡って飼い主のケアが必要となり、こまめな検査が必須となります。どうして猫は腎臓病(腎不全)にかかりやすいのか、その理由は未だ解明されていません。それでも、腎臓の機能が弱りすぎないようにサポートしながら、飼い主ができることもたくさんあります。まずは知っておくことが1番の予防になりますので、詳しく確認していきましょう。
最初に:猫の腎臓、その役割とは
腎臓は主に体液量や成分のバランスを整える、老廃物・毒物の分類と排出などの役割があります。
- 体液量の調節
血液に含まれる水分から尿を作って水分量の調節をする
- 老廃物・毒物の排泄
体の中で不用になった老廃物や塩分などの毒素ろ過、尿として身体の外に排出する。
- 電解質の調節
ナトリウムやカリウムなどの血液中のイオンバランスを保つ
- 赤血球の分化と増殖を促進
造血ホルモンや活性化ビタミンDの産出・分泌
特に重要な働きである体内の老廃物や毒素をろ過、体外に排出する働きをしているのが糸球体という毛細血管の集まりです。腎臓が障害を受けると、全身の健康状態に関わります。腎臓が弱ることで負担のかかる心臓や肝臓などの臓器も状態が悪くなり、他の病気も併発しやすくなります。
腎臓病(腎不全)には「急性」と「慢性」がある
腎臓病(腎不全)は急性と慢性に分けられます。急性の場合は何らかの原因により急激な腎機の能低下を起こし、短時間で死に至ることもあります。そのため病院で緊急入院しての治療が必要になりますが、適切な治療をすることで腎機能が回復する可能性があります。
慢性の場合は緩やかに何年もかけて腎臓の機能が低下していきます。初期の段階では健康な状態とほとんど変わらないため、気づくことができません。末期の状態になり、食欲不振や嘔吐の症状が出て初めて慢性腎臓病(慢性腎不全)であると気づくことが多いのです。長時間かけて失われた腎臓の機能は2度と回復しません。
猫の「急性腎障害(急性腎不全)」はどんな病気?
何らかの原因で腎機能が急激に低下している状態です。状態の悪化は数時間の場合もあり、様子を見ていては手遅れになります。早ければ早いほど状態が回復する可能性が高まりますので、以下の原因への心当たりが見られたら速やかに病院へ連れて行きましょう。
猫の「急性腎障害(急性腎不全)」の原因は?
原因は大きく分けて3つ考えられます。
- 腎臓そのものの障害
腎障害を引き起こす可能性のある物質を摂取してしまい、急激に腎機能が低下している(ユリ・農薬・除草剤・不凍液・非ステロイド性抗炎症剤・抗生剤の1種である、アミノ配糖体など)
- 腎臓に供給される血液量の低下
外傷などによる出血・脱水・血栓・循環器系の異常・熱中症・子宮蓄膿症・敗血症(※)などにより、腎臓への血液供給が正常に行われなくなる
(※)血液中で細菌が増殖し、多臓器不全を起こしてしまう症状
- 尿が排泄できない
事故による膀胱破裂・尿道閉塞・尿管結石・膀胱腫瘍などにより尿が排泄されない
などが考えられます。思い当たる原因があれば、獣医師に伝えましょう。
猫の「急性腎障害(急性腎不全)」の症状は?
急性腎臓病(急性腎不全)を発症すると、突然元気がなくなりぐったりした様子が見られる、食欲がなくなる、嘔吐などの症状が出ます。他にも、水を飲む量が大幅に減る、おしっこの量が減る(または出なくなる)こともあります。
急性腎臓病(急性腎不全)により腎障害が進行、腎臓がほとんど機能しなくなると、尿と一緒に排泄されるはずの毒性物質や老廃物が血液にのって体内を回り、口や脳などさまざまな部位で障害を起こす尿毒症を発症します。嘔吐、体温の低下、意識障害、けいれんなどの神経症状が起こります。急性腎臓病(急性腎不全)を発症した場合、病院に行く時間が遅れるほど、猫の命を脅かす危険性があります。様子見はせず、すぐに病院に行くようにしてください。
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猫の「急性腎臓病(急性腎不全)」治療はできる?
急性腎臓病(急性腎不全)の治療は、主に輸液療法です。水分や電解質などを投与し、脱水状態を回復して腎機能をサポートします。原因となる病気や怪我がある場合はそれらの治療も合わせて行います。重度の場合は尿がほとんど作れない状態です。その場合は輸液療法だけでは間に合わないため、尿道から尿カテーテルを入れ、尿量を管理しながら利尿剤を使用して治療を行います。猫の急性腎臓病(急性腎不全)は短時間で命を落としかねないものです。気になる症状があれば速やかに動物病院へ連れて行きましょう。
初期症状の段階で治療を行えば腎機能が回復する可能性があります。症状が重い場合は、命を落とすことは免れても慢性腎臓病(慢性腎不全)に移行してしまうこともあります。
猫の「急性腎臓病(急性腎不全)」予防はできる?
急性腎臓病(腎不全)の場合、誤飲誤食を防ぐ、事故に遭わないよう完全室内飼いを徹底するなど予防できる原因もあります。特に腎毒性が強いことで知られるユリは花粉を吸い込んだだけ・ユリを挿していた水を飲んだだけでも中毒を起こすことがあります。家では絶対に飾らないことはもちろん、外出先でユリに触れた可能性がある時は服を着替えるなどユリの痕跡を落とすまでは絶対に猫と触れ合わない方が良いでしょう。症状が見られなくても、毒性のある物を摂取した可能性がある場合は速やかに動物病院で診察を受けましょう。
また泌尿器系の病気が原因の場合は、定期的な健康診断時の尿検査や日頃の排泄状態を確認し、おかしいと感じたら即獣医師に相談を行うことで防ぐことができます。猫の健康状態把握のために続けやすい方法で、いつものおしっこ量や飲水量などの記録をとると健康管理の助けになります。
「急性腎臓病(急性腎不全)」にかかりやすい猫種はある?
どの猫種でも起こりうる症状ですが、腎毒性のある薬を飲んでいる猫、尿石症にかかっている・かかったことがある猫の場合は特に気を付けて健康管理しましょう。
猫の「慢性腎臓病(慢性腎不全)」はどんな病気?
慢性腎臓病(慢性腎不全)とは3ヶ月以上持続する、片側または両側の腎臓の機能が低下した状態のことです。ゆっくり進行することが多く、外から見ているだけでは気づきにくいです。判断基準の中には「脱水状態が無く、体調が安定している状態で2回以上の血液検査によって診断する」とあるように、安定期であれば目立った症状が見られないこともあります。しかし、1度失われた腎臓の機能は2度と回復しないため、早期発見・早期治療で症状を安定させることができます。そのため、健康診断の尿検査や血液検査、変化に気づけるよう日頃の健康状態を飼い主が把握していることが何よりも重要です。一般的にシニア猫に多い病気ですが、2才くらいの若い猫でも発症することがあります。
猫の「慢性腎臓病(慢性腎不全)」の原因は?
慢性腎臓病(慢性腎不全)の原因は未だにはっきりしていません。腎結石、尿管結石、腎臓腫瘍や細菌感染などが腎臓の機能を低下させているのではないかと言われています。慢性腎臓病(慢性腎不全)を発症する可能性が高まるものとして、
- 細菌やFIP(猫伝染性腹膜炎)などのウイルス感染による腎炎
- 薬物などによる中毒
- 心筋症やショックなどによる腎臓への血流低下
- 免疫疾患による腎炎
- 結石などによる尿路閉塞
- 先天性の腎臓異形成または未成熟、多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)などの遺伝性疾患
- 便秘や膀胱炎が慢性化し、腎不全を発症
などが原因では無いかと言われています。また、急性腎臓病(急性腎不全)からの移行も考えられます。
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猫の「慢性腎臓病(慢性腎不全)」4つのステージとは
慢性腎臓病(慢性腎不全)は長い時間をかけて少しずつ進行していくため、段階ごとに4つのステージに分けられます。IRIS(国際獣医腎臓病研究グループ)が推奨している分類を行い、治療方針を決定します。ステージ分類の目安は血液検査によるクレアチニン・SDMAの値、尿の状態、血圧の数値などを参考に行います。1度の検査だけでなく、定期的に検査を繰り返して現段階の病状を把握しながら治療を行います。
【血液・尿検査の目安】%は残存腎機能
50~40%低下→SDMA値が上昇
33%低下→尿比重が低下
25%以下→クレアチニン値が上昇
これらを指標として、腎臓の機能低下のステージ分類をし、治療方針を定めていきます。
- ステージ1
見た目は普段通り、血液検査でも異常は見られません。尿検査で異常が見られることがあります。この段階で腎臓の機能は3分の1程度(33%)に低下。尿検査で見られる異常は、尿比重(おしっこの濃さ)の低下が見られることがあります。尿比重とは尿中の水分と尿素や塩化ナトリウムなど、水分以外の物質との割合を算出した数値のことで、尿中の水分以外の物質が減っていると腎臓が老廃物をろ過できていないことが分かります。腎臓の機能を調べる指標の1つです。
- ステージ2
元気で食欲もありますが、腎機能が4分の1(25%)まで低下しているため、薄いおしっこを大量にするようになります。腎臓の機能が低下することで尿を濃縮できなくなり、過剰に水分が出て行ってしまうので喉が乾き、普段よりたくさん水を飲むようになります。このような多飲多尿の症状は糖尿病にも見られる症状です。糖尿病を患っていると併発して腎臓病(腎不全)を発症することもあります。投薬治療、食餌療法などで進行を遅らせるための対応が必要になります。
- ステージ3
老廃物や有害物質の排泄ができなくなり、尿毒症が進みます。血液中に尿毒素が入り込み、口の中や胃の中が荒れて口内炎や胃炎を起こしやすくなります。それが原因で食欲が無い、吐くといった症状が見られ、飼い主もやっと異常に気づく段階です。すでに腎臓の機能は10%程度まで低下しています。また腎臓は赤血球の成熟に必要なホルモンを分泌していますが、機能が弱って正常に働かなくなると、赤血球の数が減り、体内の酸素供給が上手くいかずに貧血の症状が見られることもあります。
この段階になると血液検査でも明らかな異常値が見られます。本来なら腎臓から排出されるはずの老廃物であるクレアチニン・BUNの血中濃度が上昇してしまうためです。クレアチニンは腎機能が25%以下まで低下すると上昇します。ステージ3になると、投薬治療、食餌療法に加え、皮下点滴など積極的な対処療法が始まります。
- ステージ4
尿毒症が更に進み、残存腎機能も5%まで低下しています。積極的に治療をしなければ、生命維持が難しい状態です。
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猫の「慢性腎臓病(慢性腎不全)」の症状は?
慢性腎臓病(慢性腎不全)の怖いところは、飼い主が目で見て分かるほど症状が出ている頃には、腎臓の機能が10%まで低下してしまっていることです。現在の医療では腎臓の機能を助けて進行を遅らせることはできても、失われた腎臓の機能を回復し、完治させることはできません。
水をよく飲む・排尿の回数が多い
慢性腎臓病(慢性腎不全)の目立った症状として、水をいつもより大量に飲み、おしっこの量や回数が増えるというのがあります。猫の平均的な1日の飲水量は1キロにつき約50ml、おしっこの量は約50ml以下と言われています。システムトイレや健康管理ができるトイレを使用している場合は簡単に尿量を計ることができますが、固まるトイレ砂を好む子の場合は理想量のおしっこ÷1日の回数分、水を入れて塊の大きさを把握しておくと目安になるでしょう。普段よりも尿が多いことに早く気づくためにも、日頃の記録も大切です。手軽に写真などで管理すると把握しやすくなります。
他にも尿の色が薄くなった(健康な状態の尿は濃い黄色)匂いがしなくなった・いつもと違う匂いがするなど気になることがあれば、尿検査をかかりつけの動物病院でやって貰いましょう。検査の結果、更に気になる症状がある場合は、レントゲンや超音波検査などで腎臓の形や大きさを確認します。
短期間で痩せる
慢性腎臓病(慢性腎不全)にかかっていると、一見元気そうでも数週間から数ヶ月単位で体重が減少していくことあります。これは少しずつ食欲が低下して必要カロリーが摂れていないことなどが原因として考えられます。
猫は体が被毛で覆われているので見た目で痩せたかどうか直ぐに判断できないこともあります。食事量が減っているなど気になる症状が出る前から、定期的に体重を計っておくと良いでしょう。少しずつ食べる量が減っているなど気になる時には1週間から2週間おきに体重測定を行い、減少が見られるようなら早めに病院へ連れて行きましょう。猫はごはんを食べた直後などは体重が多少上下するので、定期的に測定する場合はできるだけ同じ時間帯、同じ条件で計るようにしましょう。
嘔吐する
猫はよく吐く動物なので見落としがちですが、嘔吐した内容物や回数が多いなどによっては様子見してはいけない急を要するものもあります。特に慢性腎臓病(慢性腎不全)を患っていると消化器官にも負担がかかり、胃炎などを起こしてひんぱんに嘔吐することがあります。嘔吐と共に下痢の症状も出ているようだと、脱水や栄養不足が続くため、ますます体に負担がかかります。フードを食べた分ほとんど戻してしまう、食べにくそうにしているなどが見られたら、ためらわずに獣医師に相談しましょう。
もしかして慢性腎臓病(慢性腎不全)かも?気になる症状をチェック!
上述した内容をみて、「もしかしてうちの子、慢性腎臓病(慢性腎不全)なのかも?」と不安になられた飼い主様は、以下のチェックリストで確認をしてください。
猫の腎臓病(腎不全)チェックリスト
- 水を飲む回数、量が多くなった。
- トイレの回数、量が多くなった。
- おしっこの色が薄くなった
- おしっこの匂いがいつもと違う
- 食欲がない
- 繰り返し吐く
- 体重が減った
- 体温が下がった(身体がひんやりと感じられる)
ひとつでも当てはまるようでしたら、かかりつけの獣医師に相談しましょう。
猫の「慢性腎臓病(慢性腎不全)」治療はできる?
前述通り、1度失われた腎機能は2度と回復しません。現在、慢性腎臓病(慢性腎不全)に対してできる治療は「症状を緩和する」「腎機能低下の進行を緩やかにする」ことを目的に行われます。
投薬治療
慢性腎臓病(慢性腎不全)を治す薬は無いため、投薬は腎臓の働きを助け、症状が急激に悪化しないようにする薬を用います。現在承認されている薬は「ベナゼプリル(フォルテコール)」「テルミサルタン(セミントラ)」「ベラプロストナトリウム(ラプロス)」の3種類です。セミントラとフォルテコールの効能効果は尿タンパクの漏出抑制となっている一方、ラプロスは腎機能低下の抑制や臨床症状の改善(血流を増やし腎臓に届く酸素量を増加させ腎臓の悪化を抑制、サイトカインという物質が出るのを抑え腎臓の線維化による機能悪化を抑える)が期待できます。これらの薬は進行を抑えるために用いられるため、生涯に渡って飲み続ける必要があります。
ベナゼプリル(フォルテコール) 効果効能:尿タンパクの漏出抑制 ネコの慢性腎臓病(慢性腎不全)では、体内の老廃物や不用な塩分などの毒素をろ過する役割を持つ、糸球体とよばれる毛細血管が変性し進行します。ベナゼプリル(フォルテコール)は糸球体の血圧を下げ、腎臓の負担を軽減させ、尿たんぱくの漏出を抑制することを目的としています。 テルミサルタン(セミントラ) 効果効能:尿タンパクの漏出抑制 血圧の上昇を防ぐ薬で、ベナゼプリル(フォルテコール)と効果効能は似ていますが、AT1受容体(脳・心臓・腎臓・血管などに広く分布、血管収縮などを司る)をブロックし、尿タンパクの漏出を抑制することを目的としています。 ベラプロストナトリウム(ラプロス) 効果効能:腎機能低下の抑制及び臨床症状の改善 ベラプロストナトリウム(ラプロス)は、他の2つと違い、血管拡張作用、抗炎症作用、血管内皮細胞保護作用など、腎臓病(腎不全)の進行を防ぐため作用を持っています。 引用:動物の医療と健康を考える情報サイト |
どの薬が適しているかは慢性腎臓病(慢性腎不全)のステージによって異なるため、獣医師と相談の上決めるようにしてください。
食事療法
専用の療法食を与えることで、腎臓の負担を軽減させ、腎臓の機能低下の進行を和らげる治療方法です。主に低たんぱく質と表現されますが、たんぱく質だけを制限すれば良いという訳ではありません。腎臓のケアにはリン酸塩やナトリウムの制限、ビタミンB群の添加、カロリー密度の上昇(食欲が低下するので、少量でも高カロリー)可溶性繊維やW-3脂肪酸、抗酸化物質、カリウムの添加などを配慮したフードを腎臓病専用の療法食として与える必要があります。自宅で完璧に栄養コントロールするのは、かなり高度な専門知識が必要になりますので、動物病院で購入できる療法食を利用するのが1番良いでしょう。療法食は薬と同じで処方を誤ると逆に猫の体に負担がかかってしまいますので、必ず獣医師と相談の上で与えるようにしましょう。
また、食事療法にプラスしてサプリメントを使うこともあります。尿毒症を引き起こす老廃物を体に貯まりにくくするために腸内のたんぱく質・リンなどを吸着することで排泄を促進するものです。活性炭製剤、腎臓の健康維持をサポートする液体サプリメント、アミノ酸サプリ、乳酸菌サプリなど様々な商品があるので獣医師に相談してみると良いでしょう。軽度の症状の場合、与えない方が良いものもあり、素人では判断できません。専門知識を持つ信頼できる獣医師との相談は必須です。
皮下点滴
多尿による脱水が起こるため、点滴で水分を補います。皮下点滴は積極的な水分摂取により、脱水の予防をすると共に体内の水分量を増加させて尿量を増やし、老廃物の排泄を促します。飼い主が獣医師より指導を受けて自宅で行う場合もあります。
点滴というと人の場合は静脈点滴ですが、犬や猫は人よりも皮下に空間があるため、ラクダのこぶのように水分を貯める水袋を作るような感覚です。メリットとしては短時間でできる、飼い主でもできる(※病院によっては禁止しているところもあります)、入院しなくて良い、安価であるなどです。点滴パックには目盛りがついており、規定の量をいれやすく、脇の下やお腹などに一旦輸液がたまり、じわじわと体内に浸透するので副反応がないとされています。ただし、点滴には5~10分ほどかかるので大人しい性格の猫でないと飼い主が行うのは難しいと言われており獣医師との相談が必要です。
(※)手軽にできるとは言え適応量があり、多ければ多いほど良いというものではありません。適応量を守らずに行うと稀に肺水腫を起こしてしまうこともありますので、必ず獣医師の指導を受けてから行いましょう。
静脈点滴
静脈点滴も皮下点滴と同じく脱水を補う目的で行われますが、ゆっくりと注入するために半日から数日の入院が必要になります。心臓が悪い猫の場合負担がかからずに良い方法です。皮下点滴と比べ、状態を見ながらの注入なので栄養を補うぶどう糖・脂質・アミノ酸なども入れることができます。ただし1日に必要な栄養となると高栄養輸液になって血管が炎症を起こしやすくなってしまうため、猫のような小さな体だと前足の血管だけで供給するのは難しいです。点滴が終わるまで安静にする必要があるため、猫の性格や病気の状態などによって静脈点滴は難しいため、皮下点滴と静脈点滴のどちらが最善か獣医師とよく相談しましょう。
慢性腎臓病(慢性腎不全)が急激に悪化し、食欲不振や嘔吐が酷くなった場合にも、静脈点滴で治療をすることがあります。
猫の「慢性腎臓病(慢性腎不全)」予防はできる?
残念ながら明確な予防方法はありません。ただし、新鮮な水分の摂取を毎日意識して行うことで多少なりとも腎臓の負担を和らげ、泌尿器系の病気を予防する助けになります。猫は砂漠に生息していたため少ない水分でも効率良く尿を作ることができますが、水分量が少ないと毒素を排出する際腎臓への負担が増してしまいます。完全な予防対策とは言えませんが、お気に入りの水飲み場を作ってあげる、猫が通りすがりに飲めるように各所に水飲み場を増やす、水分量の多いウェットフードも与える、水分量の多いおやつなど、心がけると良いでしょう。
特に食事は身近でできる健康管理の1つです。少量でカロリーを取れ、歯垢が付きにくいドライフード、食べるだけで猫が積極的に摂ってくれない水分を摂取できるウェットフード、どちらにもメリット・デメリットがありますので両方の特性を活かして与えましょう。特にウェットフードは歯にくっ付いて歯垢になりやすいため、必ず歯みがきの習慣を付けてから与えましょう。
また、おやつにも注意が必要です。市販されているおやつの中には、猫の嗜好性を高めるために旨味成分であるリンの含有量が多いものがあります。そして多くのおやつが、リンの含有量を記載していません。いくら腎臓に配慮したフードに変更しても、リンやナトリウムの含有量が高いおやつを与えてしまうと、腎臓ケアをしているとはいえません。猫に煮干しや猫用カニカマを与えている飼い主さんも多いと思いますが、煮干しやカニカマに多く含まれるカリウムは、たくさん与えることで腎臓病や尿路結石の原因になってしまいます。フードと同じように、おやつにも気を配るようにしてください。
特に気を付けた方が良い猫の種類・年齢はある?
慢性腎臓病(慢性腎不全)は全ての猫で起こりうる病気ですが、特にシニア期の猫は注意が必要です。プレシニア期の7歳くらいから半年に1回の健康診断を行うようにすると、早めに不調に気づくことができます。また、遺伝的・家族性(※)の腎疾患が認められる品種があります。特に注意した方が良い品種は、メインクーン・アビシニアン・ロシアンブルー・ペルシャ・チンチラ・シャム・ヒマラヤンなどの純血種の猫種には遺伝に関連した腎臓疾患の報告があり、気を付けた方が良いと言われています。
(※)特定の家族(血縁)に、身体的な特徴などが集中して見られることを家族性と言います。
腎臓病(腎不全)の猫と暮らす飼い主に希望の光が!
失った猫の腎臓の機能は2度と回復しません。そのため、今までは腎機能低下の進行を遅らせる、病気によって起こる症状を緩和するといった対処療法のみで、治らない病気と言われてきました。そこに初めて、「猫の腎臓病(腎不全)に対して有効性が認められる」治療薬が開発されています。今まで原因不明と言われていた「猫は何故、腎臓病(腎不全)になりやすいのか?」を解明し、根本から猫の腎臓病(腎不全)を治すことができると言われている治療薬です。
開発されている宮崎教授は、元々は臨床医から病気の成り立ちや難病の治療法を解明する研究者となって、人間の血液中に高い濃度で含まれているたんぱく質、AIMを発見しました。AIMは造語でマクロファージ(※)を死ににくくする、元気にするという意味の英単語の頭文字を取ったものです。
(※)基本的に体内に異物や細菌が侵入すると排除するのは白血球の役割ですが、マクロファージは白血球より更に強い免疫細胞です。
AIMがどういった働きをするのか不明でしたが「人以外の動物にも存在するのか」疑問に思った宮崎教授が調べたところ、猫の体にはAIMが存在していないことが分かりました。その後、宮崎教授の研究に興味を持った獣医師との会話から「猫のほとんどは年を取ると腎臓病(腎不全)になる」と知り、AIMと紐付けて研究を重ねた結果、AIMは腎臓を徐々に壊してしまう猫の尿道に詰まったゴミを綺麗に片付ける働きをしてくれることが分かったのです。これは猫にとって革命的な発見です。AIMを投与することで、猫の寿命は今の倍、30才になると言われています。今まで弱っていく猫に寄り添うことしかできなかった飼い主にとって希望の光と言えるでしょう。
まとめ
元気に暮らしているウチの子が病気になったら?そう考えると、とても辛いです。何をされているか分からないまま頑張って薬を飲んだり検査を受けたりしている姿を見ると「代わってあげたい」と思う飼い主さんは多いでしょう。特に慢性腎臓病(慢性腎不全)は生涯に渡って薬を飲むことになり、ステージが末期に進むと輸液療法や強制給餌をしなければ生命維持が難しくなっていきます。治せるものなら、治してあげたい。そんな願いを叶えるために日夜研究に励まれている研究者の皆さん、動物の健康を心から願い真摯に向き合っている医療従事者の皆さんに心から感謝と敬意を表します。慢性腎臓病(慢性腎不全)は、治る病気ですと言える未来がくることを心から願っています。