あなたの愛猫は、慢性的にお腹が緩かったり吐いたりすることはありませんか?猫はグルーミングによってお腹にたまった毛玉を吐くことがあるので、毛玉を吐いたのかな?と見過ごしてしまいがちです。新しいフードやおやつをあげると、お腹が緩くなったり、下痢をしてしまう子もいます。しかし、体質や猫の特徴だけでは片付けられない、重大な病気になっている可能性があります。
食欲不振や嘔吐、下痢という消化器症状は、食物アレルギー、寄生虫やウイルスの感染症、腫瘍など様々な原因があり、なかには原因が特定できない病気もあります。今回は、原因不明の慢性消化器疾患の中でも特に多いと言われる「炎症性腸疾患(IBD)」について解説します。
「炎症性腸疾患(IBD)」とは?
「炎症性腸疾患(IBD)」にかかると、胃、大腸、小腸の粘膜内に原因不明の慢性炎症が起こり、下痢、嘔吐などの症状が慢性的にでます。原因ははっきりと分かっていませんが、遺伝や腸内環境が関係しているといわれています。
慢性的な消化器症状を起こす
「炎症性腸疾患(IBD)」にかかると、3週間以上にわたって嘔吐や下痢、食欲不振などの消化器症状が現れます。慢性的な消化器症状を起こした猫で、消化管以外の疾患がなく食物アレルギーやリンパ腫でもなければ炎症性腸疾患(IBD)と診断されます。ただし、炎症性腸疾患(IBD)だと確定するためには糞便検査や血液検査、レントゲンや超音波検査など、いくつかの検査を病院で受ける必要があります。
「炎症性腸疾患(IBD)」になるとどんな症状が出るの?
炎症性腸疾患(IBD)にかかると、嘔吐や下痢、血便などの症状が出ます。症状が進行すると、食欲不振や脱水症状などの症状も出てきます。初期の段階で気づくのが大切です。
気を付けたい主な症状
初期の段階では特に目立った症状はなく、たまに嘔吐や下痢、血便をします。元気がない、食欲が落ちるなどの目立った他の症状がないため、見過ごしてしまいがちですが、そのままにしてしまうと、嘔吐や下痢が酷くなり、食欲がなくなり痩せる、脱水症状などの深刻な症状が出ます。嘔吐や下痢、食欲不振のため栄養を身体に吸収することができず、低タンパク血症を発症し腹部に水が溜まる腹水でお腹が膨らんで見えたり、身体がむくんでしまいます。ただし、猫によっては下痢や嘔吐の症状はなく、むくみや腹水のみの場合もあります。
「炎症性腸疾患(IBD)」の原因は?
炎症性腸疾患(IBD)の原因は特定されていません。遺伝や食物アレルギー、腸内環境の乱れ、免疫システムの異常などが疑われており、これらいくつかの原因が重なって発症すると考えられています。また、原因不明の慢性的な下痢になる猫の多くは、炎症性腸疾患(IBD)からくるものといわれているので、決して珍しい病気というわけではありません。
「炎症性腸疾患(IBD)」の診断方法は?
原因が不明なため、診断基準もはっきりと定まっていません。
- 嘔吐や下痢が3週間以上続いている
- 食事療法や抗菌薬を用いても良くならない
- 消化管の炎症を引き起こす疾患が認められない
- 内視鏡を用いた病理検査で消化管粘膜に炎症が認められる
- ステロイドなど免疫抑制剤に対して良い結果がでる
このような状態の場合は、「炎症性腸疾患(IBD)」を疑い、いくつかの検査を実施、確定診断となります。
他の病気の除外
慢性的な消化器症状を示す「甲状腺機能亢進症」「慢性膵炎・胆管炎」「腸内の寄生虫感染」「慢性腎臓病」などではないか、血液検査、レントゲン検査、エコー検査、糞便検査、ホルモン検査を実施し、これらの病気を除外していきます。
たくさんの検査をするため、愛猫が可愛そう、負担が大きそうと思ってしまいますが、「炎症性腸疾患(IBD)」だった場合は、病気の状態を把握することが可能になります。特にエコー検査では、消化管に腫瘍が出来ていないか、腸管の構造が正常か、腹腔内のリンパ節が腫れていないかを確認することができ、その後の治療に役立ちます。
食事療法でアレルゲンがないか確認
食物アレルギーの猫の場合、下痢などの慢性的な消化器症状が出る事があります。食物アレルギーがないかを除外するため、加水分解職や新規タンパク食という療養食と水のみを2週間程度与え、症状が改善するかを確認します。
抗菌薬療法を行う
抗生物質反応性腸症(ARE)という病気の可能性を探るため、抗菌薬を2週間程度投与して様子を見る方法です。
内視鏡検査を行う
炎症性腸疾患(IBD)と似たような症状に「消化器型リンパ腫」「リンパ球形質細胞性腸炎」があります。上記の治療でも症状の改善が見られない場合、内視鏡検査によって腸管の組織を採取して病理組織学的検査を行います。まれに病理組織学的検査でも判断がつかないことがあり、その場合には「免疫組織化学染料」や遺伝子の「クローナリティー解析」と言った特殊な検査を追加で行います。
内視鏡検査は、人間の胃カメラと同じような検査になるため、全身麻酔が必要になります。麻酔をして行なうため、痛みはほぼなく、日帰りでの検査が可能です。また、食事も翌日から食べられるようになるため、猫にとって負担が少ない検査であるといえます。
「炎症性腸疾患(IBD)」の治療法はある?
猫が炎症性腸疾患(IBD)だと診断が確定した後は主に投薬治療や食事療法、抗生物質などを利用した内科的治療が行われるのが一般的です。
主な治療法は薬の投与
猫の炎症性腸疾患(IBD)の治療は下痢や嘔吐などの症状を抑えるために、抗炎症薬や抗菌薬などを投与します。ステロイド剤も使用しますが、長期的な服用が必要なので、猫の様子を見ながら投与するのが一般的です。ほかにも、治療をサポートするため、食事療法を同時に行います。
薬の投与は一生続く?
猫の炎症性腸疾患(IBD)は長期的な薬の服用が一般的です。最低でも半年以上、場合によっては一生投薬する必要もあります。症状の改善が見られた場合には服薬の量を調節しながら様子を見ます。
愛猫を「炎症性腸疾患(IBD)」から守る予防法はあるの?
残念ながら、現在のところ原因がはっきりしていないため、予防することは難しいとされています。愛猫に嘔吐や下痢が見られる場合には、体質かな?毛玉を吐いたのかな?と様子見をするのではなく、早めにかかりつけ医に相談して重症化を防ぎましょう。
まとめ
猫の炎症性腸疾患(IBD)ははっきりとした原因は分かっていません。似たような症状の病気もあるため、さまざまな治療を試して診断を確定します。また、治療に長い時間が掛かることもあるため、「この方法が本当に最善なのだろうか」と心配になることもあるでしょう。心配や不安がある場合には、獣医師に質問をし、納得をしてから治療をすすめてください。炎症性腸疾患(IBD)は完治が難しいため長期の治療が必要ですが、生存率は高いといわれています。愛猫の様子が気になる時は早めに病院へ連れて行きましょう。