猫はいつから日本にいた?日本での猫の歴史を探る

猫の豆知識 なぜ猫は日本人に愛される?日本での猫の歴史を探る!

執筆/春麦

日本の家庭における、犬と猫の飼育数の傾向に変化が見られているのはご存知でしょうか。実は、2016年までは犬の方が飼育数は多かったのですが、2017年以降は猫の方が飼育数は多く、2021年現在は新規飼育者も増加傾向にあります(引用:一般社団法人ペットフード協会 https://petfood.or.jp/data/chart2020/index.html)。理由は様々ありますが、「猫に魅力がある」ことはその理由の一つであることは間違いありません!今回はそんな猫になぜ日本人は魅了されたのか、歴史を遡って見ていきたいと思います。

なぜ猫は日本人に好まれるようになった?

なぜ日本人は、猫の魅力に魅了されてしまうのでしょうか。それには何か、理由があるのでしょうか。

いつ猫は日本にきたの?

諸説ありますが、猫は遡ること約1500年前、6世紀頃に仏教の伝来とともに渡ってきたと考えられています。その当時、仏教寺院ではネズミの被害を未然に防ぐために、猫を飼っていたのだと考えられていました。しかし、2011年に長崎県のカラカミ遺跡からイエネコの骨が見つかったことから、考古学的には現代からおよそ2100年前の弥生時代後期、1〜3世紀には猫が日本にいたのではないかと考えられています。一方で、縄文時代のものと思われる、出土した土偶の中から猫顔の土偶が発見されたことから、縄文時代にはすでに日本にいたのではないか、という考察も出ています。今後、歴史が明るみになれば、猫がいつ日本に来て、どのような歴史を辿ってきたのかがより詳細に明らかになるかもしれません。

歴史をひもとく!猫と日本人の関係

では、猫は現代までにどのような歴史を刻んできたのか、その歴史をひもといていきましょう。

弥生時代「穀物の見張り番」

弥生時代には水田稲作が行われるようになるなど、米をはじめとした穀物を主要な食材とする食文化が開始されたと推測されています。それらの穀物はネズミや昆虫による被害が多く、その対策として猫を飼育し、被害を防ぐため見張り番の役割を与えていたのではないかと推測されています。

平安時代「猫は繋いで飼いましょう!」

平安時代に突入すると、弥生時代のような役割を与えられるわけではなく、現代のような愛玩動物として扱われるようになります。しかし当時はまだ猫の数が少なく、猫を飼うことができたのは身分の高い人たちだけであったとされています。そのため、首に縄をつけ座敷の中で置物のように飼育されていたようです。

平安時代の天皇も猫を飼育していた、という記録が残っており、第59代天皇の宇田天皇が残した日記「寛平御記」は猫の飼育記録としては日本最古であると言われています。また、薬師寺の僧侶であった景戒が記した「日本国現報善悪霊異」という奇跡や怪異を集めた日本最古の説話集には、猫に生まれ変わった父親が息子に飼われるという話が載っています。他にも、平安時代を代表とする書物である「枕草子」や「源氏物語」、「更級日記」などにも猫を可愛がり、大切に飼育している描写が記されています。貴族の称号を与えられた猫の話や、現代のように猫に首輪のようなものをつけ、逃げ出さないようにしていた様子が記されています。

安土桃山~江戸時代「猫は放して飼いましょう!」

平安時代から時間は進み安土桃山時代に突入すると、猫の飼育方法に変化が現れます。過去にはネズミを駆除する役割を与えられていた猫が、愛玩動物として室内で暮らすようになりました。すると、野生のネズミが増え、また都市化や人口増加の影響か、京都ではネズミによる被害が増加しました。そこで1600年代に突入すると、「猫放し飼い令」が発布され、猫は屋外で飼育されるようになり、再びネズミ捕りの役割が与えられるようになりました。これがなかなかの効果をもたらし、ネズミの数は減少したと言われています。

また、猫の放し飼い令と同時に猫の売買を禁止する令も発布されました。当時の猫は高級品であったため、野良猫を捕まえて売り捌くことで利益を得るのを禁止しました。江戸時代中期には現代で言うところの「猫ドア」を屋内に備えた家屋が登場しました。

江戸時代末期~第二次世界大戦「芸術家に愛される」

江戸時代に突入すると室内外から放し飼いへと飼育方法に変化がありましたが、当時は猫の数は少なく、貴重な存在であったとされています。

そんな中、実物の猫の代わりに、ネズミ除けの効果があるとして猫の絵が重宝されるようになりました。猫の縁起物として現代でも人気のある招き猫はこの時代に生み出されたとされています。また浮世絵や日本画などに猫が描かれた作品が多く残されていることから、著名な芸術家たちも猫に魅了されていたのではないかと考えられています。

明治時代になると猫が描かれた絵画が増えてきます。代表的な作品としては、竹久夢二の美人画に描かれた猫ではないでしょうか。また、小説の中に登場する猫も増えてきます。夏目漱石の「吾輩は猫である」は、世界中で愛される猫の小説です。

現代「見返りのない愛」

現代では、猫は室内で飼育されており、ネズミ取りをさせるような役割が与えられていることはほとんどないかと思われます。今となっては猫や犬のような愛玩動物は「家族の一員」であると考えている家庭が多くなりました。多くの飼い主は愛猫に愛情をたくさん捧げますが、一方の猫の方はというと愛情に応えてくれないこともあり、猫本来の個を愛する性格から飼い主に甘えない猫もいます。しかし、たまに甘えてきてくれた時の嬉しさや喜びは格別で、それは猫が人間を魅了する理由の一つでもあります。そのように、「見返りのない愛」となろうとも愛してしまう、猫の魅力は底が知れません。

今に繋がる?お猫様文化

猫にまつわる話や文化は多く存在していますが、現代にも残るものをいくつか紹介いたします。

猫女中ってなに?

女中とは現代で言うところの「お手伝いさん」で、猫女中は当時の「猫のお世話する人」のことを示しています。

安土桃山時代には南蛮文化が花開き、豪商や裕福な武家では高価な唐猫(現代の洋猫)を大事に飼育していたようです。江戸時代に発令された「猫放し飼い令」では、大事な猫を放し飼いにしろ、繋ぐな、盗むな、売り買いするなという記述がありました。そこで豪商の中には、大切な猫が屋敷の外に出てしまわないよう、奉公人に銘じて見張らせることもあったようです。猫の見張りのために雇われたのが「猫女中」と呼ばれる人たちです。当時流行った浮世絵の中には、猫を抱えてお世話をしている女中の姿が描かれている作品が多く存在しています。

鎌倉時代からあった?都市伝説「猫又」

 「猫又」というのは猫にまつわる伝承や怪談に登場する猫の妖怪で、2種類あると言われています。1つは山の中にいる猫が化け、人を食べたり巨大化したりするような内容が記されています。もう1つは家で飼っている猫が、年を取りやがて猫又に化け、人を食べたりさらったりすると記されています。一方で、元の飼い主に恩返しをする猫又もいるとされています。富山県や福島県、新潟県など日本各地に猫又伝説が残されています。

江戸時代の一大ブーム!「化け猫」

  猫の妖怪の1種である化け猫は、たびたび過去の文献にも登場しています。特に江戸時代には、尾がヘビのように長いネコが化けるという俗信があったそうで、尻尾の長いネコは嫌われてしまい、その尻尾を切る風習もありました。しかし、当時の随筆や怪談集に化け猫は多く登場し、その内容が芝居で上映されるなど化け猫は一大ブームを引き起こしていました。

芸術家は猫がお好き

猫が魅了するのは農民や一般市民、貴族だけでなく、芸術家をも魅了しています。猫に魅了された芸術家たちは猫の作品を多く残していきました。

猫を愛した浮世絵師3人

江戸時代から大正時代にかけて描かれた浮世絵ですが、様々なジャンルがある中で「猫」が描かれた作品も多く存在し、現在でも人気を集めています。中でも有名な絵師と作品を紹介いたします。

  •   歌川国芳 (1798年〜1861年)

猫好きの浮世絵師として有名で、多くの猫絵を描きました。「鼠よけの猫」は猫そのものをリアルに描いた作品ですが、それとは対照的に猫を擬人化させた作品も描いています。「流行猫じゃらし」は猫が着物を着て踊る様や、三味線を弾く様を描いた作品です。他にもユーモアに溢れた作品を多く描いています。

  •   歌川広重 (1797年〜1858年)

西洋の画家たちにも影響を与えたと言われている画家で、「名所江戸百景浅草田浦酉の町詣」は窓の格子から夕暮れを眺める猫がとても印象的です。他にも「猫の鰹節渡り」や「猫の化粧」などを描きました。

  •   河鍋暁斎 (1831年〜1889年)

一度は歌川国芳の画塾に入門した経歴を持つ画家で、猫の浮世絵を残した1人です。「惺々狂斎画帖化猫」や「猫と鯰」、「鳥獣戯画鼠曳く瓜に乗る猫」など、想像力豊かな作品が多く存在します。

猫を描いた日本画家4人

日本画は明治期に生まれ、猫が描かれた作品も多く残されています。中でも、著名な日本画家4人を紹介いたします。

  •   竹内栖鳳 (1864年〜1942年)

戦前の日本画家で、近代日本画の先駆者でもあります。動物を描けば、その匂いまで描くと言われた日本画の達人でした。代表的な作品として、「班猫」が挙げられます。

  •   菱田春草 (1874年〜1911年)

明治期の日本画家で、当時の日本画の革新に貢献したと言われています。自然体な猫の描写が印象的で、中でも「黒き猫」は国の重要文化財に指定されている作品です。

  •   小林古径 (1883年〜1957年)

大正〜昭和期の「線」を重視した日本画家で、描く線描は「蚕の吐く糸のような」とも評されていました。動物が好きで、猫だけではなく犬や鳥類の作品も多数残しています。

  •   藤田嗣治 (1886年〜1968年

日本生まれなのですがフランスに移住し帰化した経歴を持つ画家で、かの有名なピカソとも交友関係があったと言われています。日本画に油彩画を取り入れ、それがフランスの画壇で絶賛されました。中でも「猫とヌード」という作品は海外のオークションで、日本円にすると5億円以上の値段で落札されたとして有名になりました。

猫を愛した作家5人

猫には不思議な魅力があり、それは著名な作家たちをも魅了していました。村上春樹さんは大の猫好きとして有名ですが、彼以外にも猫好きとして知られる作家をご紹介します。

  •   大佛次郎 (1897年〜1973年)

猫を生涯の伴侶とさえ語るほどの猫好きな作家で、野良猫を含め500匹以上の猫の面倒を見ました。猫を題材としたエッセイや小説、童話を数多く残しています。

  •   池波正太郎 (1923年〜1990年)

戦後を代表する作家で、戦国・江戸時代を舞台にした時代小説や歴史小説を多く残しました。小さい頃から猫を飼っていたらしく、自分の日記に「猫がいない生活は考えられない」と綴っています。

  •   井伏鱒二 (1898年〜1993年)

釣り好きであったことから鱒二という筆名を名乗ったとされている井伏鱒二ですが、猫好きであることも有名で、頭に猫を乗せた写真が残されています。

  •   谷崎潤一郎 (1886年〜1965年)

猫を中心に、一人の男と二人の女の三角関係を描いた「猫と庄造と二人の女」を執筆した作家で、シャム猫のような美しくて賢い猫を特に愛していました。

  •   三島由紀夫 (1925年〜1970年)

戦後の日本文学を代表する作家で、残念ながら受賞とはなりませんでしたがノーベル賞候補にもあがったことがある作家です。独身時代には机の中に猫に与える煮干しを常備しており、書斎には猫ドアが設置してあるなどかなりの猫好きだったと言われています。しかし、結婚相手の奥様は猫が嫌いで猫を飼うことができなかったため、猫に会うために実家へ帰ることもあったと言われています。

猫を愛した音楽家5人

最後に、猫を愛した音楽家を紹介いたします。(日本人ではない方も含まれていますが、日本人が愛する偉大な音楽家ということでご容赦ください)

  •     響介

SNSで人気の「猫マスター兼作編曲家」です。猫のためにマンションを買い、さらには猫のために注文住宅の一軒家建てたという響介さん。ブログやSNSで猫に関する情報を発信しているアーティストです。

  •   山下洋輔 (1942年〜)

ひじを使った独自の奏法で有名な日本のジャズピアニストの山下洋輔は、出版社のホームページで猫のブログを掲載していたこともあり、かなりの猫好きであると有名です。ある日飼い猫がいなくなり探している途中、偶然通りがかった神社の前で猫が無事に帰ってくるよう願ったところ、次の日に猫が戻ってきたのです。その神社は東京都の立川にある阿豆佐味天神社の境内社である蚕影神社です。同じようなことが一度ではなく数度あり、そのことを雑誌に「あそこは猫返し神社だ」と紹介したところ、愛猫家の中で有名になり、今では全国から愛猫家が訪れる聖地となりました。

  •  イーゴリ・ストラビンスキー (1882年〜1971年)

ロシアの作曲家で、和訳すると「猫の子守唄」や「ふくろうと猫」のように、猫がタイトルに登場する歌曲を作曲したアーティストです。

  •   ジョン・レノン (1940年〜1980年)

ジョン・レノンは1960年代に一世を風靡したバンド「The Beatles」のメンバーで、現在でも多くのファンに愛されているアーティストです。ジョンは小さい頃から猫が大好きで、毎日のように魚市場へ通っては、愛猫にたくさんの魚を食べさせていたそうです。

  • フレディー・マーキュリー (1946年〜1991年)

説明不要の大人気バンド、「QUEEN」のボーカルをつとめたフレディー・マーキューリーは大の猫好きで、多い時で10匹もの猫を飼っていました。中でも、フレディがエイズ闘病中に、愛猫のために書いた「Delilah」という曲はQUEENのファンだけでなく猫好きの間でも有名で、生前最後となってしまったアルバム「INNUENDO」に収録されています。また、2018年に公開された映画「ボヘミアン・ラプソディ」でも猫好きであったことが描かれています。

まとめ

今回は猫の歴史について記させていただきました。今回紹介しきれませんでしたが、他にも多くの芸術家たちが猫に魅了されていました。当時の文化に影響を与えつつ、現代になっても愛されている猫は本当に魅力たっぷりな動物だなと改めて思いました。

休日の午後、愛猫を膝に乗せて、猫好きな音楽家の音楽をかけながら、猫好きな作家の本を読む、そんな素敵な時間を過ごすのも良いかもしれません。

執筆者
保護猫の里親2年生です。三毛と茶トラに日々振り回されています。