愛猫との穏やかなひと時に、なでていたら突然噛まれた!という経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。肉食動物である猫の牙は鋭く、噛まれれば力加減をされていてもそれなりに痛いですし、歯形もくっきり残ることもあります。ひどい時は出血を伴うこともあるでしょう。噛み癖のある猫というのは、お客様や、小さいお子さんのいるご家庭では困りものです。猫は一体なぜ噛むのでしょうか?
猫が噛む理由と、噛み癖がつかないようにするための効果的なしつけ方法をご紹介いたします。
猫が突然噛むのには理由がある
猫が噛みたくなる理由を知れば、リスク回避ができます。猫が噛む理由をひとつずつ解説します。
甘えたい
猫がしっぽを立ててすり寄ってくる時や、頭をこすり付けてくる、喉をゴロゴロ鳴らすのは、主に甘えたい気持ちのサインですが、甘噛みするのもその一つです。
スキンシップの一環なので、猫同士のコミュニケーションで挨拶のように噛むこともあります。
遊びたい・構って欲しい
兄弟や仲間の猫と遊んでいる時にも、じゃれあい噛みついたりする姿はよく見る光景です。相手を噛んで「もっと遊ぼうよ!」と挑発しているのですが、同じような気持ちで飼い主さんにも、もっと遊びたい、構ってほしい!と噛みつくことがあります。
やめて、という意思表示
触られたくない部分に触れられたり、おもちゃを取り上げられそうになったりすると、噛みつくそぶりを見せたり、実際に噛みついて阻止しようとします。
頭や喉を撫でていたら突然に噛みついてくるのも、もうやめてほしいという意思表示です。愛撫性誘発攻撃行動という衝動で、甘えたい時とは違い素早い動きで噛みついてきます。
ストレスを感じた
同居動物とケンカをした後や猫の嫌いなお手入れなどでストレスが溜まっている時に、飼い主や家具などに噛みつくことがあります。猫がストレスを感じた時に見られる転嫁行動のひとつで、ストレスの原因とは関係のない相手や物にストレス発散といわんばかりに噛みつくのです。ストレスの原因となる事を突き止めない限りは、改善が難しいでしょう。
本能的な理由
猫は肉食動物ですから、生まれ持った狩猟本能を刺激されると噛みついてしまいます。ネズミのおもちゃや猫じゃらしなどで遊んでいると、そのうちに興奮して本気モードにスイッチが入ってしまい、対象のおもちゃをボロボロになるまで齧ることもよくあることです。遊ぶときに手指をヒラヒラした動きも同様で、じゃれて遊んでいるうちに狩猟本能を刺激されれば噛みつくこともあるでしょう。
病気・ケガが原因
病気で体のどこかが痛む、どこかにケガをしている時に、その場所を触れられそうになると噛みつこうとしたり威嚇声を出したりします。外見ではわかりづらい病気・ケガをしている可能性もあるので、様子がおかしいと感じたら、獣医師に相談するべきでしょう。
歯がかゆい
生後3~6ヵ月頃の子猫は乳歯から永久歯に生え変わる頃で、歯茎がむずむずとして歯がかゆいと感じ、何かに噛みつきたくなってしまう時期です。人間の手を噛ませていると、人の手を「噛んでいいものだ」と思ってしまいますし、何より力加減のできない子猫に噛まれるのは、なかなか痛みを伴います。癖になる前に、歯がためのおもちゃなどを与えるのがお勧めです。
猫の噛む力は強い?
野生の猫は狩りをして、上下2本ずつ備わる鋭い犬歯で獲物を仕留めて生活している動物です。確実に獲物を仕留める必要があるため、猫の噛む力は100キログラムほどあります。人間の噛む力は平均で60~70キログラムですから、それと比べても大変強力だといえるでしょう。甘噛みをしているうちはまだ問題ありませんが、何かの拍子に力が入ってしまったり、遊んでいるうちに興奮して噛みつかれたりしたら、無傷ですむはずがありません。
もしも猫に噛まれたら
猫の口の中には常在する様々な細菌が存在します。たとえ甘噛みだとしても、噛みつかれた際に少しでも傷ができてしまえば、傷口からバイキンが入ってしまい病気を発症することがあります。
猫に噛まれて発症するかもしれない病気に注意
猫に噛まれた場合、次のような病気を発症する可能性があります。
- 猫ひっかき病
パルトネラ菌を持ったノミに吸血された猫に引っかかれたり噛まれたりすることで発症する病気で、主に傷口の化膿、発熱、リンパ腫の腫れという症状が見られます。
猫にとっては無害ですが人間にとっては有害な菌で、ノミが増殖発生する7月~12月頃に多く報告されています。猫から人へ感染する人獣共通感染症(ズーノーシス)の代表的な病気です。
- パスツレラ症
パスツネラ属菌という、ほとんどの猫の口腔内に存在する常在菌に感染すると、呼吸器系や噛まれた部分の皮膚系にトラブルが起こります。
呼吸系は、軽い風邪のような症状から重篤な肺炎症状まで人それぞれですが、もともと気管支や肺に基礎疾患のある方は発症しやすいく、繰り返し発症することもあります。また、噛まれたり引っかかれた部分が30分から48時間ほど赤くはれあがり、化膿して蜂窩炎(ほうそうえん)を引き起こします。糖尿病やアルコール性肝障害などの基礎疾患のある方は、重症化することもあり、敗血症や骨髄炎に発展することもあり、死亡例も報告されています。
- カプノサイトファーガ感染症
ほとんどの猫の口腔内にいる3種類のカプトノサイトファーガ常在菌が、引っかかれたり噛まれたりすることで人間に感染しますが、比較的感染しても発症しづらいと考えられています。
潜伏期間は1~14日で発症すると、頭痛、発熱、倦怠感、腹痛、吐き気、などを引き起こします。重症化すると髄膜炎や敗血症などに発展し死に至ることもあります。
カプノサイトファーガ感染症の認知を広げるために、厚生労働省のホームページ、動物由来感染症の項目でもQ&Aが紹介されています。
- 鼠咬症・ストレプトバチルス感染症
鼠咬症(そこうしょう)スピリルム、ストレプトバチルスという原因菌を保有している猫に噛まれたり引っかかれたりすることで人間に感染します。
14日間ほどの潜伏期間の後に、頭痛、悪寒、発熱、筋肉痛、嘔吐などがあり、噛まれた部分は赤く腫れあがります。手足に水疱ができ関節炎を引き起こすこともあります。
- 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
もともとマダニに噛まれることで感染するダニ媒介の感染症で、2011年に報告されたばかりのウィルス感染症です。感染すると下痢、嘔吐など消化器系に症状が現われる他、発熱、筋肉痛、リンパの腫れなどが引き起こされます。猫はマダニに噛まれることで感染し、発症している猫の唾液などに触れることで感染する可能性がありますが、猫から人に感染するケースは稀だと考えられています。
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の正しい認知を広げるために、厚生労働省のホームページ、感染症情報の項目でも紹介されています。
応急処置はどうすれば良い?
まずは細菌感染を防ぐために、噛まれた部分を流水で良く洗い流してください。傷が大きい場合には、速やかに病院を受診しましょう。傷が小さく、ご自宅に化膿止めの薬があるのでしたら、塗って様子を見るのも良いでしょう。ただし、時間が経っても傷が痛む、熱を持っているという場合には、傷の大小に限らず速やかに病院に行くようにしてください。
病院では何科を受診する?
傷の状態によって処置の方法が異なるため、何科を受診するか変わってきます。
- 傷が浅い場合 … 皮膚科
- 傷が深い場合 … 外科、総合外来、整形外科、形成外科
傷が浅い場合には、化膿止めなどの初期的な処置をして貰えるので、皮膚科や整形外科を受診することをお薦めします。診察で見た目よりも傷の状態が悪い、細菌感染の恐れがある場合は、外科や形成外科を紹介される可能性もあります。
傷口が深い、酷く腫れているという場合には、外科を受診することをお薦めします。外科では傷口の処置、細菌感染の予防処置が施されます。皮膚の一部が欠けてしまったという場合や、血が止まらない場合には、整形外科で専門的な処置を行って貰えますが、傷が骨まで達している、傷の縫合だけでは修復しないという大きな怪我ですと、形成外科を受診することになります。
どのような場合でも、皮膚科、整形外科、形成外科では初期治療が可能ですが、傷口を処置する際の器具が揃っていない病院もあるため、来院まえに電話で確認しておくと安心です。
病院で伝えるべきこと
診察ではどのような状況で猫に噛まれたのか、必ず確認されます。主に聞かれる内容は以下のような事です。
- 噛んだのは飼い猫か野良猫か
- 猫の大きさ(子猫か成猫か・身体の大きさ・歯の大きさなど)
- いつ噛まれたのか(噛まれてからの経過時間)
- 噛まれた場所以外に違和感のある部位、自覚症状はあるか
飼い猫に噛まれた場合には、ワクチンの有無を聞かれることもあります。問診の内容によっては処置が変わることもありますので、細かい説明を心掛けてください。
噛ませないための効果的なしつけ法とは?
猫が噛んでしまうのには様々な理由があります。猫の気持ちを考えて、噛んでしまわないために飼い主さんができることをご紹介します。
噛むときはどんな時か観察する
猫が噛んでしまう時は、いったいどんな状況であるのか観察してみましょう。遊びや甘えの延長なのか、攻撃性や嫌悪によるのか「噛む理由」によっては、対処する方法が違ってきます。
甘えたい時、遊んでほしい時は、遊びの延長でキックも一緒に繰り出されることもあります。甘噛みは多少大目に見てあげたくなりますが、エスカレートしてしまう可能性十分に考えられます。子猫の場合であれば大人になるにしたがって、噛まなくなることもあります。
撫でている最中に突然噛みついてくるのは、「もうやめてほしい」というサインです。しっぽをパタパタ振り回したり、耳をピクピク動かし始めたら、不快を感じているサインなので、噛まれる前に手を引っ込めましょう。
ケガや病気、ストレスなどの外的要因があるようなら、早急に対処が必要です。上記のケースに当てはまらない成猫であれば、体の状態や、食事排泄の様子なども注意して観察しましょう。原因を追究して改善するか、獣医師に相談が必要です。
狩猟モードの猫は、集中して瞳孔が開いていたり、腰を上げてしっぽを立たせ、対象に飛び掛かるタイミングを図っていたりするので、このような時も巻き込まれて噛みつかれないよう注意が必要です。周囲が危ないような時は落ち着かせてあげましょう。
噛み癖の治し方はある?
一度ついてしまった癖を治すのは難しいことですから、子猫のうちからしっかりと教えるのがベストです。
噛まれた時に、痛いのを我慢して口の方に押し付けてください。押し付けられた猫は、それ以上噛みついていられず、口を離すことがあります。猫にケガをさせないように、急に力任せに押し込まずゆっくりと力をこめるようにしましょう。痛いからといって、慌てて引き抜こうとすると、逃げる獲物を追いかけるように後追いで噛みついてくることもあります。
力加減がわからず強く噛んでしまうようであれば、噛まれたときに大きな声で痛いことを訴えてください。名前を呼んで叱ってしまうと、名前を呼ばれることが怒られる合図だと誤認させてしまうことがあるので、「痛い!」「ダメ!」などが有効です。
家具や壁、柱を噛む場合であれば、しつけスプレーを使用するのが有効な場合もあります。
おもちゃを用いるのは効果的?
おもちゃで遊ぶことで狩猟本能を満たしてあげれば、他の人や物への噛みつきも自然に抑えられるでしょう。猫のおもちゃにはたくさんのバリエーションがありますが、噛みついても問題のない丈夫なタイプは効果的です。またたびが入っている仕様のものも多く、ストレス発散にもなりますし、タイプによっては歯の健康を保つのにも役立ち、一石二鳥です。子猫のうちから、手ではなくおもちゃを用いて遊ぶことを覚えるのが大切です。
人や動物以外を噛む!その理由は?
猫が噛んでしまうのは、人やほかの動物だけではありません。猫が噛んでしまう時、注意が必要なものがあります。
しっぽを噛む
猫はグルーミングをする動物です。日々毛並みのお手入れで全身を舐めて毛づくろいをしますが、自分のしっぽをしきりに噛んでる時は注意が必要です。外傷や皮膚炎を発症していたり、ストレスによる自傷行為の可能性があります。ケガや脱毛がないか一度しっぽの状態を確認してあげましょう。
自分の手を噛む
指の間を丹念に舐めたり噛んだりする、猫のかわいいしぐさのひとつです。たいていは、爪の手入れや、顔を洗う前であることがほとんどですが、いつもと違う様子がうかがえたら、爪や手に何か異常がないか確認してあげましょう。
ビニールを噛む
コンビニ、スーパーのビニール袋などは、軽さとガサガサという音が猫にとって魅力的なおもちゃのひとつです。度が過ぎると噛み千切って散らかしてしまうこともありますが、誤飲の原因となり大変危険です。見かけたら、他のおもちゃやおやつで気を引いて回収しましょう。
まとめ
一度噛み癖がついてしまった猫に再度しつけをするのは、根気と時間が必要となります。しかし、猫と飼い主さんの健康のために大切なことです。
どんなに大変でも、叩いたりすることは絶対にしてはいけません。どうしても困った時は、必要であれば獣医師にも相談してみて下さい。