猫のリンパ腫の原因、症状、治療法を徹底解説

猫の健康 猫に多い血液のがん「リンパ腫」はどんな病気?治療法は?予防はできる?

執筆/ウミノリヨ

猫の病気のひとつである「リンパ腫」をご存知ですか?愛猫が発症したときに適切に処置してあげるためにも、覚えておきたい血液のがんである「リンパ腫」の基礎知識について、ご説明いたします。

「リンパ腫」とはどんな病気?

リンパ腫とは、血液に含まれる白血球の一種・リンパ球が、遺伝子異常などによりガン細胞になってしまう病気です。リンパ球は骨髄で生成され、血液に乗って身体中を巡回し、異物や細菌、ウイルスなどと闘う役割を持っています。しかしリンパ腫になってしまうと、正常な機能を持たないリンパ腫が過剰に増殖し、体内の正常な組織を癌組織に置き換えたり、リンパ管の集合体であるリンパ節にシコリを作ったりします。リンパ腫は猫の腫瘍性疾患の中で最も発生頻度が高く、場合によっては命にも関わります。

「リンパ腫」になる原因はある?

リンパ球がガン化するはっきりとした理由は解っていませんが、細胞内の遺伝子が何かの要因により傷つきガン細胞に変異、変異したガン細胞が体内で増殖してリンパ腫を発症するのではないかと考えられています。遺伝子の変異やリンパ腫の発症に関連しているものとして考えられるのは、ウイルス感染・副流煙・免疫力低下・年齢によるもの、といわれています。

ウィルス

リンパ腫の主な原因のひとつとして考えられているのがウイルス感染です。特に猫白血病ウイルス(FeLV)は、キャリアと呼ばれる発症はしていないがウイルスを持っている猫の約20%がリンパ腫を併発したといわれています。また、猫エイズ(猫免疫不全ウイルス・FIV)に感染したことで免疫力が低下し、リンパ腫にかかりやすくなります。比較的年齢の若い猫は、ウイルス感染が原因でリンパ腫を発症する傾向にあるといわれています。

副流煙

タバコの副流煙が人にとって有害なように、人よりも体の小さな猫にとってはより有害な物です。飼い主が喫煙者の場合、非喫煙者の家庭と比べてリンパ腫にかかるリスクは約2.4倍という報告があります。

免疫力低下

猫においても人間と同様に、免疫力の低下や免疫異常が、がん細胞の増殖に影響すると考えられています。また、アレルギー性皮膚炎などに用いられる免疫抑制剤を長期に渡り使用することで、リンパ腫の発症リスクが上がる可能性もあります。

年齢によるもの

リンパ腫発生の原因には、猫の平均寿命が延びたことも挙げられます。猫も高齢になると免疫力が低下し、老化に伴い細胞が傷つきやすくなります。シニア猫は遺伝子が変異するリスクが高くなり、ガンが発症しやすくなると考えられています。

発生部位によって違う「リンパ腫」の症状

リンパ腫の主な症状には、咳、嘔吐、下痢、体重の低下による衰弱などが挙げられますが、発生部位によっても異なります。

消化器型リンパ腫

消化器型リンパ腫は、猫のリンパ腫の中でも特に多いといわれています。主に腸管や腸間膜にあるリンパ節に腫瘤ができます。主な症状は、食欲低下、体重減少、嘔吐、下痢があげられ、他にも怠そうにしている、寝ている時間が長いなどが見られます。

消化器系リンパ腫は悪性度の低いタイプと高いタイプの2つにわけられ、悪性度の低いタイプは数ヶ月に渡って症状が続き、ゆっくりと病状が進みます。その一方で、悪性度の高いタイプでは数日から数週間という短い期間で進行するため、突然症状がでます。

消化器型リンパ腫で注意が必要なのが、リンパ腫が大きくなって腸閉塞になってしまうことです。また、腫瘍が出来た部分の腸管がもろく破れやすくなり、腹膜炎を併発することもあります。

猫白血病ウイルスや猫エイズウイルスなどのウイルス感染が原因と言われていますが、それ以外には免疫力の低下したシニア猫がなりやすいといわれています。

縦隔型リンパ腫

縦隔型リンパ腫は、胸腺や胸の中の縦隔リンパ節に腫瘍ができます。肋骨よりも内側で発生するため、触診では腫瘍の存在を確認出来ません。縦隔型リンパ腫が疑われる場合には、レントゲン検査や超音波検査などを用います。

縦隔型リンパ腫の主な症状には、咳、呼吸困難、嘔吐、餌や水の飲み込みが困難になる嚥下障害、胸に水が貯まる胸水、などが挙げられます。愛猫が口呼吸している場合は、縦隔型リンパ腫が重症化して、自力での呼吸が困難になっている可能性が疑われますので、早めに動物病院に連れて行くようにしましょう。

2~3歳位の若い猫によく見られ、猫白血病ウィルスに感染している確率が高いのが特徴です。

節性リンパ腫(多中心型リンパ腫)

多中心型リンパ腫は、顎の下や脇の下、鎖骨の内側、関節の裏側、内股の付け根など、体の表面のリンパ節が丸く腫れ上がるのが特徴です。

節性リンパ腫の症状は、発熱、元気喪失、食欲不振、体重減少、上述の末梢リンパ節の腫れなどが挙げられますが、初期段階では目立った症状がでないこともあります。

犬のリンパ腫の約8割が節性リンパ腫であるといわれていますが、猫の症例はあまり多くありません。

鼻腔リンパ腫

鼻腔は、猫の腫瘍の発生箇所で約1%から8%ほどを占めており、その内30%から50%を、鼻腔リンパ腫が占めます。

鼻腔リンパ腫の主な症状には、鼻血、膿性鼻汁、呼吸困難、くしゃみ、逆くしゃみ、目やに、流涙、顔面変形などが挙げられます。

鼻腔リンパ腫はシニア猫に多く見られますが、2~3歳の若猫が発症することもあります。

腎臓型リンパ腫

腎臓型リンパ腫を発症すると、腎臓がリンパ腫に置き換わり、腎機能が低下します。主な症状は、腎不全に似た症状(食欲不振、体重減少、多飲多尿など)や血尿といった症状がでる場合もあります。また、腎機能が低下するまでは症状がでないこともあるため、お腹を触ったときに、腫瘍化して肥大した腎臓が手に触れ、始めて病気に気付くというケースもあります。

腎臓型リンパ腫は、高齢の猫に多く見受けられますが、若い猫が発症する場合もあります。

中枢神経系リンパ腫

中枢神経系リンパ腫は、脳や脊髄などの中枢神経に腫瘍が発生します。近年では猫の医療においても、MRI検査やCT検査の導入が普及し、中枢神経系リンパ腫の診断精度も向上しています。そのため、早期発見に繋がるケースが増えてきました。中枢神経系リンパ腫は、猫のリンパ腫全体の中では少ないものの、猫の脳腫瘍や脊髄腫瘍といった括りでは、比較的多く見られます。

症状のみではリンパ腫と断定出来ませんが、脳で発生しているのであれば発作や運動失調、急激な性格の変化、意識が朦朧としている、目が見えていない、知覚過敏などの症状が見られます。脊髄に腫瘍が出来ているのであれば、四肢の麻痺や運動失調、首から腰までの脊髄の痛みなどがあります。

それ以外の部位

リンパ腫は上述した以外にも、脾臓や肝臓、気管、喉、皮膚、眼球内など様々な部位で、発生します。肝臓や脾臓のリンパ腫の場合、腫瘍化が進行する前は、症状が出ないケースもあります。気管や喉にリンパ腫を発症している場合、声が出ないという症状から急に呼吸困難になることもあります。

「リンパ腫」の治療法は?

猫のリンパ腫の治療では、どの部位に発生したリンパ腫なのか、病変の広がりはどれくらいなのか、他の組織への転移はないか、リンパ腫の悪性度と進行度合いなどを検査したうえで、症状に適した治療方法を取ります。治療の方針を決めるには、その猫が治療方法を許容できるか、体力、年齢、性格などを加味した上で選択する必要があります。治療自体が上手く行っても、術後に猫へのダメージが残るようであれば、最良の選択とは言い難く、納得がいくまで獣医師と相談の上で治療法を決める必要があります。

下記にてリンパ腫の主な治療法を紹介します。これらは単一ではなく、組み合わせで治療する場合もありますので参考にしてください。

化学療法

リンパ腫では抗がん剤を用いた化学療法が主な治療法となります。人での抗がん剤治療は完治を目的としていますが、猫の場合は症状を抑える目的や、延命のための緩和治療となります。

化学療法では一種類の抗がん剤を用いる単剤療法や、複数の抗がん剤を投薬する多剤併用療法などがあり、治療期間は症状によって異なりますが、半年から1年といった長期で行う場合もあります。

抗がん剤は、がん細胞を破壊してくれるのと同時に、正常な細胞も破壊してしまうため、副作用として嘔吐や下痢など消化器周りの不調や、白血球の減少が見受けられる場合もあります。そこで、副作用を極力抑えるために投与量を抑えて、吐き気止めなどの投薬治療も同時に行われます。

抗がん剤治療は飲み薬の場合もありますが、多くが注射での投与になります。注射をした後しばらくの間は、副作用の有無がないか病院で確認をする必要があります。また次の抗がん剤投与までの期間、猫の体調の変化、発熱や吐き気、下痢などの副作用がないか、確認を怠らないようにしてください。

外科療法

皮膚の特定の1カ所に限られるリンパ腫で、他の組織への広がりや転移が見られない場合、外科手術で切除する場合があります。それ以外にも、腸へのリンパ腫の発生により腸に穴が開いてしまった場合、手術で腫瘍を切除することがあります。その他には、腫瘍を可能な限り取り除き腫瘍全体の体積を減らしてから、残りのがん細胞を化学療法や放射線療法で治療する、という方法を取る場合もあります。

放射線療法

化学療法で良い反応が見られなかった場合や、放射線治療が効果的なリンパ腫であった場合、放射線療法をすすめられる場合があります。放射線療法も化学療法と同様に、一定期間腫瘍を縮小させ、症状を抑える緩和治療です。

放射線治療は施設の整った限られた病院でしか受けることができません。放射線治療を選択したい場合は、掛かりつけ医と相談の上、必要であれば紹介状を書いて貰いましょう。

緩和ケア

リンパ腫が発症した段階から、猫にとっては痛みや気持ち悪さ、不快感など何らかの苦痛を伴う場合が多いでしょう。緩和ケアは、上述のリンパ腫の治療と併用、もしくは単独で、痛みどめや症状緩和を目的として行い、なるべく猫の苦痛を取り除き快適に生活できるようにするための治療です。リンパ腫を発症したどの猫にとっても、緩和ケアは必要な治療であるとされています。日頃から猫の様子を細かく観察しながら、気になる症状があれば、すぐに獣医師に相談し、愛猫が快適に生活を送れるように心掛けてあげましょう。

「リンパ腫」になりやすい猫の種類はある?

リンパ腫はどの年齢、どの猫種でも発症するリスクはありますが、シャムもしくはシャム系は好発猫種ともいわれています。また、加齢とともに発症リスクが高くなりますが、若猫でも猫白血病ウイルスや猫免疫不全ウイルス(猫エイズ)に感染していた場合、リンパ腫を発症することがあります。

愛猫を「リンパ腫」から守るための予防法は?

リンパ腫発症のメカニズムは解明されていない部分が多いため、完璧な予防対策というのはありません。しかし、リンパ腫の多くが、猫白血病ウイルスや猫免疫不全ウイルス(猫エイズ)に関連していため、それらのウイルス感染を防ぐことが、リンパ腫の予防にもなります。ウイルスに感染させないためには、完全室内飼いを徹底し野良猫との接触を防ぐ、ワクチン接種が効果的といえます。タバコの副流煙から愛猫を守るため、完全分煙または禁煙を選択されるのも良いでしょう。


また、早期発見が出来れば初期段階からの治療が可能になるので、定期的な健康診断をうけることも効果的です。

まとめ

猫のリンパ腫は、命にも関わる恐ろしい病気ですが、上述したように、愛猫をリンパ腫から守るためには、予防対策がとても重要です。完全室内飼育やワクチン接種などの他にも、事前に症例へのきちんとした予備知識を身に付けておくと、有事に役立つでしょう。

治療方針を決定する際には、愛猫にとってベストな選択、飼い主として納得できる治療方法を考えるために、主治医と十分なコミュニケーションを取りながら、慎重に方針を決定しましょう。

もしも、愛猫がリンパ腫を発症してしまった場合、猫にとっては頼れるのは飼い主だけです。愛猫の体調不良は飼い主にも心的な負担が多く、慌ててしまう場合もあるかと思いますが、まずはよく落ち着いて、愛猫のために最善を尽くしてあげられるようにしてください。

執筆者
フリーライター。 猫と日本史とアンティーク着物が好きなサブカルチャー趣味。 幅広い分野でコラム/エッセイ/シナリオ/脚本等の執筆を行う。 twitter:@uminoriyo note:https://note.com/umino453145